オレはいったいどれほどの男か、と問いつづける男たちの物語。

 二人の男の独白体でつむがれる、その体裁でいけば、自然、訥々として晦渋なものになりそうな形式である。ところが、彼らの語りは観察者としての読者からの信頼を、彼らの感性の豊かさと柔軟性で、よい意味で裏切り、揺さぶってくる。彼らが自身の言葉が、対象に対する真摯さによって相対化され、読者に多重の意味合いをもって聞こえてくるのである。勝、土方、藤堂、花乃などのみごとに設えられた(としか言いようのない)セリフが、他者からのものでなく、語り手の中の揺らぎとして実質感を持ってくるのだ。
 ……以上は久保田弥代さんの近況ノートで展開された「一人称議論」を踏まえた私の感想ですが、「なるほどそういうことだったのですか」と素直に納得できる、見事な実践がここにあると言っていい。
〝自己意識を対象化する文章〟というものは、揺るぎそうでいて揺るがない、危うそうでいてそう意識する意識がまた勃然として立ち現れてくるというものだが、ここでは〝妖化〟という形でその果てのカオスを暗示してバッサリと切ってみせている。
 うまい。続く「会津編」ではどう展開して見せてくれるのか、期待は高まるばかりだ。

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