近藤勇、土方歳三、沖田総司、斎藤一。読後に4人の経歴をWikipediaで確認してみました。そこで吃驚。本作品は史実と齟齬が無いんです。他の登場人物についても、推して知るべしでしょう。
下級武士だった彼らの経歴は、当然ながら虫喰い状態で、その間隙をファンタジーで埋めてるわけですよ。
そのファンタジーとは、赤い環を持つ者と青い環を持つ者の群像劇。この赤と青の対比が読者を唸らせる。現実では絶対に有り得ないのに、読書中はストンと納得してしまう。凄い!と思います。
主人公は沖田と斎藤の2人ですが、仮に2人の役回りが本作品と逆転したら、物語は成立しません。史実と乖離し始めます。史実の空隙と言う針の穴を通すような物語の構成やキャラ設定。作者は随分と長い間、構想を練ったに違い有りません。文字数の向こうに奥行を湛えた大作です。
さて、一見の読者を引き寄せるには、冒頭での咬ましが必要です。「宇宙戦艦ヤマト」の冥王星沖海戦のように。そして、お決まりの終盤戦での盛場。ガミラスとの決戦を経ての、沖田艦長の哀愁漂う「地球か。何もかも皆、懐かしい」の独白。本作品は、その黄金律を見事なまでに実現しています。だから、面白い。単なるアクション物ではなく、人情や生き様の機微に迫る面白さ。
星の数は3つですが、5つ付けたいのが本心です。
大きな、でも九牛の一毛に過ぎない歴史の流れを扱う歴史小説に対し、
そこから零れ落ちる等身大の人間を描くのが時代小説と考えています。
歴史小説では人間を群体として扱い、時代小説では個体として扱う、
と言ってもいいかも知れません。
新撰組を扱った小説は浅田次郎『壬生義士伝』、『輪違屋糸里』、
『一刀斎夢録』の一連の作品でお腹いっぱいの感がありましたが、
本作は新たな要素として妖を取り入れることにより、一回り下の
年代にも読みやすく仕上げられています。
妖を取り入れた効果は顕著で、まずもって戦いがハデ。
脳裏に描きやすい言葉を巧みに選び、異能力者が犇めくマンガを
見慣れた人にも訴求するレベルです。
加えて、藤田和日郎『うしおととら』の獣の槍と同じく、絶大な力の
代償に人性を喪失する制約を加えることで覚悟を、変貌する造形での
戦いにより獣性を、強烈に印象づける効果を生んでいます。
覚悟はその人が戦う理由をも浮き彫りにしますから、
人物造形にも好影響を与えています。
そう捉えると、青い環のリスクをさらに顕在化させる方が凄惨な
覚悟を演出する上では効果的であったのかも知れません。
しかし、それを補って余りあるのが人物造形の緻密さと会話の上手さ、
これは他の方々が幾重にも強調されているので贅言しません。
ここまで濃密に人の喜怒哀楽を描いた小説を読むのは久々でした。
また、歴史小説と時代小説は別物と痛感させてくれる一作です。
いやあ、時代小説ってホントにいいものですね。
ここまで時代小説に徹されると、逆に作者の筆で勝麟太郎を描いた
「歴史小説」も読んでみたいと強く思わされますね。
沖田総司、斎藤一という、新撰組二大人気を中心にした時代小説です。
労咳を病んだ沖田はあやかしの力を借りて戦い、斎藤はあやかしを狩る異能の持ち主です。その点では、ダークファンタジーでもあります。
物語は、二人の視点で交互に語られていきます。
病んでいるために思うように戦えない沖田の苦悩、仲間を思う優しさ、儚い恋……。間者として二重三重に仲間を裏切り、人殺しをつづける斎藤の葛藤。彼らを支え、共に闘う毅い(つよい)女たち。見守りつつ死んでいった仲間たち……。
ーーそうした事柄が、当事者の視点で語られることによって、いっそう強く、哀しく読み手の胸に迫ってきます。
……考えてみれば、そうですね。史実を知っている私たちは、彼らの行動を俯瞰できますが、当時生きていた彼らには、ただ巨大な時代の流れに押し流され、翻弄される気持ちだったことでしょう。
私はほぼ時代小説として拝読しましたが、あやかしが登場するシーンの美しさ、戦闘の烈しさは、バトルファンタジーとしても楽しめると思います。
描かれているのは、悲劇の英雄たちではありません。激動の時代を懸命に生き、死んでいった漢(おとこ)たちの物語です。
新選組の歴史をモチーフにファンタジー要素を絡めて描いた骨太長編です。
特筆すべきは、硬質で時代性を取り入れた語り口ながらも、実に読みやすく書かれた文章。
登場人物の心情に寄り添いながら、容赦なく流れる時代の流れに翻弄され、それでも自分の信じる道を歩み続ける男たちの心情が胸に迫ります。このストーリー展開がまさに骨太、作者がこの物語にかける思いまで伝わってくるようです。
物語は沖田と斎藤の二人の視点から描かれ、それぞれの戦いや苦悩、歴史に翻弄される様が活き活きと語られていきます。
そこに妖退治の要素が加わり、新選組の他のキャラクターとの絡みと相まって、怒涛の展開を見せていきます。
そして最後に訪れるなんとも美しいエンディング!
私は歴史ものや新選組などはあまり読んでいないのですが、そういった予備知識なしに十分楽しむことが出来ました。
むしろ知っていればもっと楽しめたのに!と思いました。
ということでまずは読んでみてください!
私はテレビや映画で観る時代劇は好きなのですが、時代小説や歴史小説は小難しくてなかなか読むのが捗りません。
でも、この物語は違いました。
堅苦しくないのに、しっかり骨太。敷居は低いのに、志はめっぽう高い!そんなオイシイとこどりな待望の物語なのです!!
濃密な人間模様に酔いしれ、壮絶な生き様に骨の髄まで惚れ込む。そんな時代物ならではの空気が張り詰めている一方で、あの時代を生き抜いた彼らをとても身近に感じることができました。
作者様はもしかしてイタコなんじゃないか、実際に彼らを憑依させて書いているんじゃないか……!と半ば本気で考えてしまったほど、血の通った生々しい一人称で物語は進んでいきます。
読みやすいのに、それでいて心の襞が増えていくような、重みのある読み応えの連続でした。
そして最後まで読み終えた今、イタコや憑依どころではなかったと思い知らされました。
そういう一時的なものじゃなく、蘇らせた生命を丸ごと文字に宿したような、もっと永遠なるパワーを感じます。
奥歯を噛み締めながら読み進めて、読了後にどっと溢れてきた涙には、言葉にできない充実感がありました。
この作者様が描く新撰組に出会えたことが、とても嬉しいです。
どこまでも熱い誠心誠意の物語を、皆様もぜひっ!!
二の斎藤の章を読了した時点でのレビューです。
新撰組+強く賢い女性+妖変化する敵勢力
という構成のバトル活劇です。
そしてその目玉となるのは、
ヤンデレの沖田総司
悩める漢の斎藤一
という二大濃厚色気燃え萌え男性キャラです。
燃えて、萌える、漢。これにピンと来たなら読みましょう!
歴史に詳しくなくても、楽しく読んで燃えて萌えれます!
男性キャラを立てれば女性キャラが立たず、女性キャラを立てれば男性キャラが立たない…
そういう類の話は世に多くありますが、この作者様の男女の練り方はどっちも高水準で、信頼感が漂っています。
女性キャラが(色んな意味で)高レベルだから、メインの男性キャラも際立ってます。
ここに居る沖田総司と斎藤一は、紛う事なき『真なる大人の男』ですよ!
二人の男の独白体でつむがれる、その体裁でいけば、自然、訥々として晦渋なものになりそうな形式である。ところが、彼らの語りは観察者としての読者からの信頼を、彼らの感性の豊かさと柔軟性で、よい意味で裏切り、揺さぶってくる。彼らが自身の言葉が、対象に対する真摯さによって相対化され、読者に多重の意味合いをもって聞こえてくるのである。勝、土方、藤堂、花乃などのみごとに設えられた(としか言いようのない)セリフが、他者からのものでなく、語り手の中の揺らぎとして実質感を持ってくるのだ。
……以上は久保田弥代さんの近況ノートで展開された「一人称議論」を踏まえた私の感想ですが、「なるほどそういうことだったのですか」と素直に納得できる、見事な実践がここにあると言っていい。
〝自己意識を対象化する文章〟というものは、揺るぎそうでいて揺るがない、危うそうでいてそう意識する意識がまた勃然として立ち現れてくるというものだが、ここでは〝妖化〟という形でその果てのカオスを暗示してバッサリと切ってみせている。
うまい。続く「会津編」ではどう展開して見せてくれるのか、期待は高まるばかりだ。
とにかく、すごい。
文章は緻密で、時にものがなしく時に荒々しく、場面に応じて色を変える巧みさがある。
時代考証もしっかりと行われて、登場人物の語る方言にまでこだわっている徹底ぶり。
作品オリジナルの設定と史実や有名なエピソードをうまく絡めており、新撰組のことを知っていても知らなくても楽しめるようになっている。
登場人物はみな「いま、生きている人間」として苦悩や怒り、悲しみや愛といった感情が生々しく描き出されている。有名な新撰組の面々で、どんな結末を迎えるのか知っていても思わず「生きて幸せになって欲しい」と思ってしまうほど。
とにかく、すごい。これに尽きます。これだけのクオリティの作品が無料で良いのだろうか。夢中で読みました。
新撰組に興味のある方にはゼヒこの作品を読んでもらいたい。
新撰組に興味のない方にもゼヒこの作品を読んでもらいたい。
読んだ当初は、幕末の史実をなぞりながら、妖という要素を組み込んだ異能歴史モノといった印象でした。
しかし読み進めていくほど、綿密な時代考証と感情の機微、剣戟と妖の力を用いた戦いの描写に、ぐいぐいと引き込まれていきました。
WEB小説でここまでしっかりとした時代小説が読めるのかと、個人的には新鮮でした。かなりの取材と資料を集めたことかと思います。
そんな下地があって、展開される物語はまさに日本的な滅びの美学に溢れていました。
それぞれの人物が曲げる事のできない信念を持ち、そのどちらにも善悪とは判断できず、命を懸けて戦わねばならない武士の姿が描かれていました。
しかしメインである沖田と斉藤の二人にも、まだ若い青年としての苦悩や葛藤があり……。激動の時代に生きた若者達の、感情の変化も巧みに描写されていました。
歴史の奔流を生きた彼らの結末は、ハッピーエンドともバッドエンドとも言い切る事はできないです。しかしこの物語の幕引きは、切なさと穏やかさが同居するエンディングでした。
もっと評価されても良い作品だと感じました。面白かったです。
新撰組の沖田総司と斎藤一を主人公に据え、妖というファンタジー要素をミックスさせた歴史ファンタジー。
幕末の激変する日本の空気感がひしひしと伝わってくるよう。
雰囲気も抜群ですし、歴史上の人物たちが皆、非常に魅力的に描かれています。
彼らの矜持と各々の思想がぶつかり合う様は、時に読んでいて辛いほど。
感情の揺れ動きが胸に迫ってきて、何度も涙がこぼれました。
自分が会津の生まれなので、新撰組と会津藩が追い詰められていく後半は、心情描写の巧みさも相まってかなりしんどいものがありました。
だからこそ、穏やかなラストに温かい涙があふれました。
歴史物にあまり興味がないという方にも、ぜひ手にとって頂きたい一作です。
幕末の京都を護る新撰組。彼らの相手は、人間だけではなく妖にまで及んでいた。
己が願望を叶えるために、ヒトの理を逸脱してまで妖の力を求める仇たちが迫りくる。
人であり、人ならざる妖の相手をするのは、同い年の若き剣士。
病を得、自らも望んで妖の力を借りる天才剣士、沖田総司。
産まれながらに妖を斬る力を持つ「密偵」、斎藤一。
二人の壬生狼が、時には共に、時には個々に、
己が「誠」を背負って目の前の妖に対峙する。
確かな筆力と骨太な歴史知識に基づいて、史実の「If」を鮮やかに描き出したエンターテイメント小説。
新撰組の面々をはじめとし、歴史好きにはおなじみの、幕末を彩る人物や事件の「おもてなし」も心地よい。
新撰組が、沖田が、斎藤が、約束された破滅への環を歩みゆく。
幕末に咲いた浅葱色のあだ花に寄り添う、誠実で優しい鎮魂歌に酔いしれろ。
なんて書きたくなるくらい面白いお話しでした。
すっごいガッツリ歴史なのに、すっごく青春しています。
新撰組を知ってる方にも、知らない方にもおすすめです。
幕末、動乱の京都を駆け抜ける新撰組。
沖田総司は病をおして戦うため妖の力を借り、斎藤一は生まれつき妖を狩る力を持つ。
エッセイ『新撰組紀行 ‐ 斎藤一と、京都を歩く』で、著者の描く新撰組に関心を抱き。
中編『斎藤一、闇夜に駆けよ』を拝読して、これは凄いとレビューを書き。
その直後に連載が始まった本作を、ずっと楽しみに追っていました。
中編のレビューにも書きましたが、食えないおっさん・勝海舟が好きです。
どこが好きなんだろうと、本作の連載を追いながら考えていたのですが……。
後世の人間である私は、斎藤がいつ死ぬかを知っている。
しかし、この物語の中の彼は、非常に危うい。
でも、勝海舟に使われている間は死なないような、安心感があるんですね。
かつて大河ドラマ「新選組!」を見ていました。
ドラマでは、どうしても俳優さんたちの実年齢にも印象を左右されますが。
新撰組が京都にいた頃の斎藤や沖田は、20歳そこそこの若者。
凄腕の剣客とはいえ、今の大学生くらい。
友との関係、女性との出会い(ヒロインが二人とも魅力的!)、心の動きに「青春」を感じます。
終章。「幸せだった」と言える人生で、本当に良かった。
素晴らしい連載を、有難うございました。
幕末、新撰組が戦っていた相手は、妖堕ちした尊王攘夷派だった――そんな歴史ifを描いたエンターテイメント作品です。
病魔に侵されながらも妖の力を借りて戦う沖田総司、仲間の裏切りを悩みつつ前に進み続ける斎藤一をはじめとして、激動の時代を己の信ずるまま生き抜いた男女の姿が生き生きと描かれています。
手に汗握る殺陣・妖バトルと、史実とフィクションが織り成す人間ドラマ、そして彼らの運命をぜひあなた自身の目で――。
個人的には、飄々としながら腹の底で何を考えているか分からない勝海舟が一番のお気に入りです。
(本物もあのような感じだったのかもしれませんね)