ただ懸命に生きた漢(おとこ)たちの物語

沖田総司、斎藤一という、新撰組二大人気を中心にした時代小説です。
労咳を病んだ沖田はあやかしの力を借りて戦い、斎藤はあやかしを狩る異能の持ち主です。その点では、ダークファンタジーでもあります。

物語は、二人の視点で交互に語られていきます。
病んでいるために思うように戦えない沖田の苦悩、仲間を思う優しさ、儚い恋……。間者として二重三重に仲間を裏切り、人殺しをつづける斎藤の葛藤。彼らを支え、共に闘う毅い(つよい)女たち。見守りつつ死んでいった仲間たち……。
ーーそうした事柄が、当事者の視点で語られることによって、いっそう強く、哀しく読み手の胸に迫ってきます。

……考えてみれば、そうですね。史実を知っている私たちは、彼らの行動を俯瞰できますが、当時生きていた彼らには、ただ巨大な時代の流れに押し流され、翻弄される気持ちだったことでしょう。
私はほぼ時代小説として拝読しましたが、あやかしが登場するシーンの美しさ、戦闘の烈しさは、バトルファンタジーとしても楽しめると思います。

描かれているのは、悲劇の英雄たちではありません。激動の時代を懸命に生き、死んでいった漢(おとこ)たちの物語です。

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