私事ではありますが、子供の頃から夜空を見るのがとても好きでした。視力も落ちて肉眼で暗い星々などを眺めることは難しくなってしまいましたが、例えば帰路にふと空を仰いで月や星が輝いているのを見ると、今でも心が静かになる気がします。とはいえ、別に活力が漲るわけではありませんし、むしろ淋しさが募ったり、悲しさが胸に込み上げることもあります。ただ、私はその静かな淋しさが好きなのだろうと思います。夜空が、自分に寄り添ってくれるような気分になるのかもしれません。
この作品の世界では、ただひたすらに暗闇が広がっているようです。星すらも逃げてしまったらしい。それなのに、想像しただけでも恐ろしいのに、その暗闇に足を踏み入れている人たちがいるのです。彼らには理由があるとはいえ、己の存在すらあやふやになる世界に旅立つことは容易なことではないでしょう。ただ、彼らには“星油ランタン”がありました。太陽のように強い光ではないものの、淡く周囲を照らし、歩むことを許してくれる。文字通り一寸先は闇の世界でも、まるで月明かりのように寄り添ってくれる。
この作品は、読者に星油のような明かりを灯す物語です。
太陽も月も星さえも失われた、常闇の世界ーー
星油ランタンを掲げて歩むエピは《旅人》だ。街から街へ、人から人へ、情報を携えて行く《旅人》たちは、尊敬されている。彼らがいなければ、闇の中で孤立した街の人々は他の街の存在を知らず、植物も動物も、世界の他の地域で起きた出来事も、知ることができないからだ。
闇を歩くエピは、ある日、別の旅人の書いた『手記』を見つける。
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完全な闇の世界。光源は人々の燃やす炎と「星油ランタン」の明かりだけ。ーーかなり限界に近い厳しい世界で生きる人々の物語です。最初に登場するエピの孤独はもちろんですが、「星油の泉」が枯れた街を脱出する人々の境遇、光をものともせず襲いかかってくる『暗闇』、情報と知識の乏しさゆえに疑心暗鬼に駆られる人々など……生と死の瀬戸際で、それでも平穏に生き続けようとする人々の姿に胸を打たれます。
手記を書きながら旅を続けるエピ、エピに助けられた少年、外見の特異さから人々に忌まれた少女、「見えないもの」を描く画家、など……。優しく厳しい闇の物語に惹かれ続けています。
太陽も月も星もなくなってしまった暗闇の世界で。
『星油ランタン』の光を頼りに旅をする人々の物語です。
読み終えた後にほんのり余韻が残るような、ロード・ノベル。ほのぼのしたり、怖かったり、少し悲しくなったり……。
連作短編ですので、週末の夜ごとに、一つずつお話を楽しむことも出来ます。
旅人の一人であるエピとデューゴが、出会い、共に旅をする内に信頼関係を築いていく過程や、それぞれの旅の目的の違い、または目的を探す旅が描かれています。
また別の旅人のカラスが出会った旅芸人たちとの交流なども臨場感があり、描写が丁寧で、新しい場所をそれぞれの旅人たちと共に旅しているような、そんな気分を味わえる物語です。
太陽と月が砕け、星もなくなった暗闇の世界の話です。
時間によって色が変わる星油ランタン、真っ暗な闇を行く旅人、交換屋、「暗闇」の存在等、この世界を形作っているものがどれも素敵で、不思議で、個人的にときめき成分が盛りだくさんでした。
なかなか出会ったことのない設定だったこともあり、旅する彼らや出会う人たちの話を聞いていると、不思議な感覚に陥りました。
他のお話の名前を出すと失礼かもと思ったのですが……個人的な感覚としては、はじめのエピソードは『星の王子さま』の中で王子が語った彼が旅してきた星の人たちの話を聞いているような。隣に座って聞いているようなそんな感覚でした。
この物語では、エピを通して聞いているような感覚で。
ですが、エピソードが進むにつれ、道連れが増えるにつれ、だんだんそれが、より身近に降りてきて、話を聞いているというよりは、一緒に旅させてもらっているような気持ちに変わってきたり。町が見えると嬉しくなったり。
また話し手が変わって、また違う景色や感情を見せてもらえたり。
そんな気分が味わえて、とても贅沢なお話だなぁーと思います。
(もう何を言っているやらで申し訳ない感想になってきましたが……!)
暗闇の世界の話ですが、描かれる灯りが、やわらかく、とても美しく映りました。
これからの道行きも楽しみです。