歩むことを許してくれる光。

 私事ではありますが、子供の頃から夜空を見るのがとても好きでした。視力も落ちて肉眼で暗い星々などを眺めることは難しくなってしまいましたが、例えば帰路にふと空を仰いで月や星が輝いているのを見ると、今でも心が静かになる気がします。とはいえ、別に活力が漲るわけではありませんし、むしろ淋しさが募ったり、悲しさが胸に込み上げることもあります。ただ、私はその静かな淋しさが好きなのだろうと思います。夜空が、自分に寄り添ってくれるような気分になるのかもしれません。
 この作品の世界では、ただひたすらに暗闇が広がっているようです。星すらも逃げてしまったらしい。それなのに、想像しただけでも恐ろしいのに、その暗闇に足を踏み入れている人たちがいるのです。彼らには理由があるとはいえ、己の存在すらあやふやになる世界に旅立つことは容易なことではないでしょう。ただ、彼らには“星油ランタン”がありました。太陽のように強い光ではないものの、淡く周囲を照らし、歩むことを許してくれる。文字通り一寸先は闇の世界でも、まるで月明かりのように寄り添ってくれる。
 この作品は、読者に星油のような明かりを灯す物語です。

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