神話からはじまり、彼の地に根付く人々の暮らしや風習を追いながら、その文化的背景を読み解き、歴史の影に隠れた大罪を探す話
いわゆる物語・ストーリーの合間に、文化人類学あるいは民俗学のレポートを挟んでいくような、独特な筆致でした。
ファンタジー世界の設定をこうも興味深く読ませてくるのは凄いの一言。
設定というのは創作者の熱量が高まるほど読みにくくなりがちですが、この作品ではファタンジー世界の野外調査に参加しているような、不思議な高揚感があります。
変な話、物語はいいからもっとレポートを読ませろと言いたくなるくらい。
とはいえ、もちろん物語の骨格もしっかりしていて、ぐいぐい暗部に接近していく主人公たちの足並みに恐怖するばかり。
なぜか狩られる側の視点になっちゃいましたが、こんな能力があったら野外調査も楽だろうに……と、つい思ってしまう面白い作品でした。
雨季に森が水没するほどの雨が降るガレート族の地では、雨季を終わらせるための戦争『ツベトクバナー』が毎年行われていた。
対立する部族民の首を狩る戦いは、何故か〈花の戦争〉とも呼ばれている。
かつて西の大国の植民地支配をうけ、搾取された地に残る風習は、大陸全土でひろく用いられる薬草の起源に関わっていた。
〈首刈り天使〉アスコラクは、イネイとフィラソフとともに調査に乗り出すーー
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アスコラク・シリーズの新作です。今回は標的不明のまま物語が進行し、終盤で明かされる真相に戦慄を覚えます。
文化人類学的な舞台背景に、歴史と気候変動、植物の生態までからんだ謎解きは、読み応えがありました。
クールで知的で残酷な、アスコラクの魅力をご堪能ください。