興奮が加速する極上のエンターテイメント・バスジャック

 面白い。ただひたすらに面白い。これ以上の言葉はもはや野暮なのではないかとすら思う。だけどその野暮ったさを承知の上でつらつらと長ったらしいレビューを書き連ね、たくさんの読み手の目に留まって貰いたいとも思う。それだけの魅力が、この作品にはある。

 読み終えた時、時速300キロで突っ込んで来た才能の塊と正面衝突した感覚が確かにあった。読んだことないけれど「バッカーノ!」や「デュラララ!!」ってこういう雰囲気なんじゃないだろうか。全部外れた頭のネジの代わりに両面テープで脳みそと常識をくっつけている登場人物たちが織り成す、ハイスピードでノンストップなクライムアクションコメディ。誰一人として共感できる登場人物はいないのに、気がつけば全ての登場人物のことが好きになっている。現実と空想を乖離させたまま空想の世界に読み手を浸らせるその姿は、エンターテイメント小説の理想だ。

 キャラクターの魅力を支える地の文の巧さも見逃せない。アクションや情景の描写は勿論のこと、とにかく魅せ方が巧い。説明ではなく、言動や仕草でしっかりキャラクターを表現できている。噛ませや賑やかしとして用意されたキャラクターですら愛おしく感じさせるその手腕は、もはや筆力としか言いようがないだろう。

 そして何と言っても後出しを後出しと全く感じさせない構成力。さながら老練した人誑かしの練りに練られたデートプランである。目まぐるしく変わる景色、飾り過ぎていない洒落た言葉、そしてサプライズ。読み手はいつの間にか彼の虜になり、デートの終わり際には多大な満足と共にえも言えぬ惜別の情を抱いているはずだ。

 僕は本作を雅島貢さんのTwitterで知った。多分、自力では辿り着けなかったと思う。実に勿体ないことだ。僕のレビューを読んだ人間が一人でも多くバスに乗り込んでくれることを願う。作者に代わり、クレイジーでハイでエンターテイメントな旅を約束しよう。

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