全員、ふつうじゃない。一番ふつうじゃないのは誰か、それは明らかだ。

ちょっと待て。
だから、ちょっと待てってば。

次々と繰り出される超常的な展開に、ツッコミが追い付かない。
ツッコミどころしかないのに、見事な構成がツッコむ隙を与えない。
何だこれ。
飄々とした文章が、しれっと常識を書き換えていく。

振り返ってみれば、最初のバスジャック犯だけが正統派だった。
いっそのこと健気にも可憐にも見えてくるほどだ。
魔法使いやら超人やら幽霊やら、変なのがわらわらと出てくる。
あまりにもさりげなく自己紹介されて、疑問を挟む余地すらない。

嵐に巻き込まれた、というか。
呆気にとられるうちにバスは進み、バスジャック犯が増えていく。
増えると言っても増殖系SFじゃなくて、同じものが増えるより、
バスジャック症候群に感染した患者の相乗効果のほうが凄まじい。

「ノンストップクライムコメディ」というキャッチのとおりで、
犯罪《クライム》と喜劇《コメディ》が掛け合わされると、
こんなわけわからんパワーを発揮するのか、と唖然。
無論、巧緻な執筆テクニックがあればこその面白さだ。

普段のレビューではあらすじの紹介をさせてもらうのだけれど、
(話の雰囲気をほのめからされたら、手に取る人が増えそうだし)
『感染性バスジャック症候群』にあらすじの紹介は不要だろう。
タイトルとキャッチだけで十分で、それ以上は無粋になる。

全員、ふつうじゃない。
一番ふつうじゃないのは誰か、それは明らかだ。
本作を手に取った読者全員の同意を得られると思うけど、
カスイ漁池という人物だ(誉め言葉です)。

本当にお見事なコメディエンターテインメント小説。
するすると読み進められて、爽快な読後感がある。
コメディ系の舞台演劇が好きな人にはたまらないかもしれない。
余談ながら、読み嵌まって味噌汁を焦がした。どうしてくれる。

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