柔らかい筆致で紡がれる、寂しくもどこか暖かい寄譚集

胸の底を掴まれるようなお話でした。

大正ロマン、怪異が見える主人公、一つ屋根の下に住むお嬢様。お話を構成する要素は決して珍しいものではありませんが、それらによって演出される世界は、唯一無二の柔らかさと美しさを持っていると思います。

特に、二話は素晴らしかった。奥村との絶妙な距離感が、少しずつ縮まって行く様子は、自分の青春時代を思い起こさせるような、妙な気恥ずかしさすら覚えます。キャラクターがみな、若干愚かしくも憎めない印象なのが、とても好きです。オチがすごく素敵。

また、ふわふわとしているものの、その根底にはきちんとした筋が通っているのも好みです。この世とあの世感を誤魔化さず、きちんと言葉にして現したシーンは実に胸に響きました。

今後も、夢を見ているかのような読書体験を、嬉々としてお待ちしています。

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