大正幽歩廊

作者 佐々木匙

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★★★ Excellent!!!

大正期、モダンな街並みを整えつつも、江戸の名残を留めた東京。
大学進学のため上京した境涼太郎は、生物学教授の書生となった。
教授の愛娘、吉野弥生は早々に涼太郎の元気のなさに気が付いた。
涼太郎の目には、実は、見えないはずのものたちが映るのだった。

死してなおこの世に留まる者たちはどんな思いを抱えているのか。
忠実な愛犬、黒衣の少年、清楚な少女と、さまざまな者たちが
涼太郎の目の前に現れ、それぞれの思いを託した花を咲かせる。
この世とあの世の境は曖昧で、在るべき形が少し違うだけなのだ。

涼太郎の周囲に集まる怪異は、死者によるものばかりではなく、
生者の心が起こす力であったり、はたまた優しい妖であったり。
ホラーとはいえ怖さもおぞましさもなく、ただ、そっと物悲しい。
涼太郎が東京で過ごす1年間を経て、弥生との距離は縮まるのか。

作品を形作る文体と雰囲気が、憧れるほどに本当に美しい。
戦前の文学作品を彷彿とさせる言葉遣いでありながら自然体。
すっと染み入ってくるような何とも言えない心地よさで、
ああ、ずっとこの作品世界に浸っていたいな、と思った。

★★★ Excellent!!!

 目を引かれたのは、タイトルに花が添えられている事でした。
それは作者による献花なのか、季節に沿っているのか、読み解かせてくれる作品です。
 魂と、人の思いの境界を、作者の言葉と柔らかな情感が橋渡しをしてくれます。
 生きる者は前向きに。死せる者は強かに。
死者と生者の大正ロマン譚。

★★★ Excellent!!!

 ひとりの書生がむすぶ生者と死者の交わりの物語です。

 大正時代の東京を舞台に、おかしなものがみえてしまう生真面目な書生の涼太郎さんと、寄宿先のお嬢さんでお転婆な女学生の弥生さんを中心に、生者と死者、人ならざるものたちの境界上の物語が、堅実な筆致でえがかれていました。

 郷里では異端だったために人との関わりにとぼしかった涼太郎さんが、天衣無縫な弥生さんとの出会いをきっかけにかわっていく姿は、「黄泉路と梅の花の話」で見事に昇華していて心をゆさぶられます。

 奇譚、大正浪漫譚、成長譚というみっつの側面がどれもたかいレベルで実をむすんでいる物語でした。

★★★ Excellent!!!

大学で学ぶために上京してきた境涼太郎には、他人に見えぬものを見る目があった。
涼太郎の周囲で、人と、人ならぬものが行き来し共存する、優しい物語。

「学友と勿忘草の話」で、この作品における基本的な世界の捉え方は、涼太郎の口から語られていますが。
それを一番実感したのは、「奥村の恋と金木犀の話」に出てきた「俺と全く同じじゃ無いかよ」という台詞。
人と、そうでないものとの間に、大した違いなどないのです。

周囲の人々の心を明るくしてくれる、弥生お嬢さん。
凛として気高く、うちに刃も持つ、登美子嬢。
デパートガールの女性も、皆、自分とは何であるかを探している。

郷里では、その目ゆえに居場所のなかった涼太郎が、東京でお嬢さんや他の人々と触れ合い、自分を肯定していく過程には、胸にぐっとくるものがあります。

これから先の物語も、とても楽しみです。

★★★ Excellent!!!

視覚に訴えかけるような季節の色の鮮やかさ、そこにある温度。徹頭徹尾、描写の美しい作品です。

幽霊や生死の話なのですが、言葉からイメージされるようなある種の過激さや激烈さはなく、低い温度で流れる時間は優しく涼やかです。

移り変わる季節の中にあって、言葉では語られぬ空気や熱・その他のすり抜けていってしまうようなとらえどころのないものを、ひとつの言葉に押し込めることなく、とらえどころのないままで描写する様は感服の一言で、是非、読んでみてほしいと思います。

★★★ Excellent!!!

“幽霊”というものの魅力を余さず捉えた作品であるように思います。
そしてそれは取りも直さず、生きているひとの物語でもあるということです。死んでいても生きていても、ひとには各々かつて関わった相手がおり、心に患う事柄がある。そういう人間(及び人間以外)を描いたこの作品は、ある時は結ばれた縁の美しさを、ある時は浮世のままならなさを、情緒あふれる筆致に乗せて読者の胸に送り出してくれます。
逍遥するものたちに寄り添って進む、優しくも一筋縄ではいかない魅力に満ちたお話でした。この先に記される出来事もとても楽しみです。

★★ Very Good!!

まず最初に、近代文学のインプットがしっかりしていて、正統派の文章だと感じました。
そしてそれを、現代の言葉でアウトプットする作者の力量に敬服します(言葉の選び方のバランス感覚が素晴らしく、古い時代を匂わせつつ現代的な感覚)。

同人誌などで良く見るこういった作品にありがちな、アナクロな嫌味は全くありません。
内容も奇を衒わず、自然体で読めて、すっと心に染み入ります。

こういう作品を書ける人がいるんだな、と。

★★★ Excellent!!!

胸の底を掴まれるようなお話でした。

大正ロマン、怪異が見える主人公、一つ屋根の下に住むお嬢様。お話を構成する要素は決して珍しいものではありませんが、それらによって演出される世界は、唯一無二の柔らかさと美しさを持っていると思います。

特に、二話は素晴らしかった。奥村との絶妙な距離感が、少しずつ縮まって行く様子は、自分の青春時代を思い起こさせるような、妙な気恥ずかしさすら覚えます。キャラクターがみな、若干愚かしくも憎めない印象なのが、とても好きです。オチがすごく素敵。

また、ふわふわとしているものの、その根底にはきちんとした筋が通っているのも好みです。この世とあの世感を誤魔化さず、きちんと言葉にして現したシーンは実に胸に響きました。

今後も、夢を見ているかのような読書体験を、嬉々としてお待ちしています。