本作品のジャンルはファンタジー。
ド派手な戦闘シーン、周りを圧倒するような
大規模な魔法や能力の演出はありません。あとハーレムも(笑)
とても美しい魔法の杖を作る魔女、
その杖に惹かれ弟子入りから多くのことを学ぶ少年の成長を描いた物語。
杖を作る過程での素材や、魔法の杖の描写はとても丁寧に描かれていて、
読んでいるとその質感を感じるくらい。
そしてとても難しい杖作りに挑み、挫折しそれを乗り越え完成した杖。
少年の感情がとても上手く伝わってきて、一緒に杖作りをした気分になります。
あと時々ちりばめられる魔法の数々は、おとなしく派手さはないものの
実際にこんな魔法はあったんじゃないか?と思えるほど
しっかりした構成で組み込まれていて読んでいる方もワクワクします。
キャラクターはそれぞれ背景が決まっていて
感情や苦悩がしっかり読み取れます。
また文章表現がとても分かり易く、優しい雰囲気なので
感情移入しやすく、物語の世界にすんなりと溶け込めます。
作者様の作品に対する愛を感じる物語。
ファンタジー好きな方にぜひおススメしたい作品です。
・・・余談ですがあえて例えるならば。
【へイラッサイ!と暑苦しい店長の超濃厚マシマシラーメン屋】に対し、
【女将さんが笑顔で出迎える小料理屋】といったところでしょうか?
ガツガツ系の本気食いじゃなく、マッタリゆっくり楽しみたい方に。
ぜひどうぞ♪
この作品に派手さはありません。
主人公のラスト君はひよっこ職人なので、あらゆる場面でちょくちょく失敗を重ねます。
彼はなんでもできるチート系主人公ではないですし、バトルで無双するわけでも、美少女でいっぱいの一大ハーレムを築くわけでもありません。
それでも読んでいてハラハラドキドキするのは、とにかく描写のひとつひとつが非常に丁寧だからでしょう。
丁寧な世界観と、そこに生きる人々の心情描写。そこには確かなリアリティがあり、気がつけば読者は主人公と同じ目線に立っています。
終始描かれるのは、『ものを作る事』の難しさと楽しさ。
生きる道に迷った少年が、魔女との暮らしを通して新しい生き方を見つけるまでの49話。
毎晩寝る前に少しずつ読み進めたい、児童文学を思わせるファンタジー小説です。
産業革命によって職と夢を奪われた少年が、革命の要因である魔法杖に惹かれて、生きる力を取り戻していくドラマに感動しました。
何度も悩み、立ち止まっては、前に進むラスト少年のいじらしさがとても可愛いですし、ラストが道を間違えまた立ち止まる度に、優しさと不器用さで道を指し示してくれるアイーダ先生が素敵でした。
初めから終わりまで、アイーダ先生はラストのことを大切に大事に、彼にとってよい道筋を考えて寄り添い、最期には彼に全てを託していく。
一見、怖そうでもそれは人間関係に慣れてないからで、自信家に思えても内心は自分の技術や思考に不安を持ちながらそれを克服して生き、愛情深くとも人や自分がその愛に翻弄されないように自制する強さ、本当に魅力的な人物でした。
また時間を置いて、読み直したいと思える作品でした。
全体を通じて良質なファンタジーの世界が描かれており、気軽に読めてニヤニヤ出来るネット小説らしさのある作品とは違う、個性豊かな物語。
どちらが良い悪いではなく、この作品はそういう物。
斬新な技が飛び交うバトルシーンもなく。
個性豊かなヒロインが所狭しと飛び回るわけでもなく。
それでいて世界観は壮大であり、躍動するファンタジーの世界が見事に描き出されています。
行き場を失った一人の少年と、生き方に迷う一人の女。
師弟として心を通わせる二人が、その手で紡ぐ『杖』を中心に物語が描かれていく。
落ち着いた大人なファンタジー。
是非ご一読下さい!
まず、何よりも雰囲気がいいです。表題から想像される空気を全く裏切らない、優しくも丁寧で、幻想的かつ地に足のついたお話作り。求めていたものを与えてくれたというだけで、好感度はうなぎのぼりです。
その雰囲気を支えるのは、作り込まれた世界観。一つ一つの事柄が、「魔法にとって変わられつつある文明」という世界観に、実に見事にマッチしています。特に、魔法は豊かさを産み出したけれども、なんでもできる代物ではないという設定が好きです。
また、キャラクターの心情描写も凄くよい。先生は多くを語らずとも人となりがどんどん見えてくるし、ラストくんの幼さと真面目さの混在するキャラクターは、凄く魅力的なものです。特に、「廃光晶の欠片」は凄くよいお話でした! 心捕まれました。
何がよいって言うと、突出してよいところを一言で言うのは難しいです。全部の良さが絡み合って、ひとつの素晴らしい物語を作り出しているという印象。続きも楽しみにしています。
細かなあらすじについては他へ譲り、この物語について私が見たものについて語りたい。ひとことにも書いた、美しさと優しさの意味を知る、ということ。
美しさも優しさも、苦しくて、一筋縄でいかなくて、何度も打ちのめされ、涙を流す。その苦しさは消えることなく、けれど求める美しさも優しさも、あなたの傍について回る。これは、魔女と魔法の杖を通してそのように語ったお話だと感じました。
一見牧歌的な物語の舞台は、同時に戦争や差別もある世界。人間が当たり前の幸福を求める中で、弱い者がすり潰されていく現実に他ならない。「人間」の弱さ、悪辣さ、そういうものが容赦なく描かれながら、過度にショッキングな演出はなく、朴訥とも言えるラスト少年の視線がそれを見つめる。
彼が求める「美しいものを作りたい」という思いは、そのまま生きることの辛さにも繋がって、迫害される「魔女」の立場であるアイーダ先生の存在も相まって、血の通った登場人物たちの行く末にのめり込みました。
土の匂い、木漏れ日の光、葉ずれの音。それぞれの思いで生きて動く人々が踏みしめる物語の舞台は、確固たる存在感を読者に訴えかけ、それがよりいっそう没入感を高めてくれます。
序盤のちょっとした描写が後半で重要な意味を持っていたと明かされることが繰り返し起こり、こうした構成の丁寧さも白眉。CATさん、あなた初めて書いた小説だって言いましたよね……!?
物語の全体は、ほとんど地味と地道で構成されておりますが、それこそこの作品に必要な部分です。スローライフファンタジーとしてその部分を楽しんでいくことも出来ますが、これが後からどんどん効いてくる。美しいものは、日々の小さなやり取りと努力、一つ一つの痛みや悲しみ、他者との交流から生まれてくるのだと、読書体験そのものから教えられるような小説でした。