美しさと、優しさの意味を知る物語。

 細かなあらすじについては他へ譲り、この物語について私が見たものについて語りたい。ひとことにも書いた、美しさと優しさの意味を知る、ということ。
 美しさも優しさも、苦しくて、一筋縄でいかなくて、何度も打ちのめされ、涙を流す。その苦しさは消えることなく、けれど求める美しさも優しさも、あなたの傍について回る。これは、魔女と魔法の杖を通してそのように語ったお話だと感じました。

 一見牧歌的な物語の舞台は、同時に戦争や差別もある世界。人間が当たり前の幸福を求める中で、弱い者がすり潰されていく現実に他ならない。「人間」の弱さ、悪辣さ、そういうものが容赦なく描かれながら、過度にショッキングな演出はなく、朴訥とも言えるラスト少年の視線がそれを見つめる。
 彼が求める「美しいものを作りたい」という思いは、そのまま生きることの辛さにも繋がって、迫害される「魔女」の立場であるアイーダ先生の存在も相まって、血の通った登場人物たちの行く末にのめり込みました。

 土の匂い、木漏れ日の光、葉ずれの音。それぞれの思いで生きて動く人々が踏みしめる物語の舞台は、確固たる存在感を読者に訴えかけ、それがよりいっそう没入感を高めてくれます。
 序盤のちょっとした描写が後半で重要な意味を持っていたと明かされることが繰り返し起こり、こうした構成の丁寧さも白眉。CATさん、あなた初めて書いた小説だって言いましたよね……!?

 物語の全体は、ほとんど地味と地道で構成されておりますが、それこそこの作品に必要な部分です。スローライフファンタジーとしてその部分を楽しんでいくことも出来ますが、これが後からどんどん効いてくる。美しいものは、日々の小さなやり取りと努力、一つ一つの痛みや悲しみ、他者との交流から生まれてくるのだと、読書体験そのものから教えられるような小説でした。

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