裏社会と怪異。リアルな筆致で綴られる二つの非日常

 非日常と非日常が交わる話。この作品を一言でまとめるならば、そういう表現になるでしょう。

 いわゆる怪異ものにおいて最も強くその恐怖を演出するのは「落差」であり、ゆえに平穏な日常の中に怪異を潜ませるパターンが多いのですが、本作はその手法を取れません。主人公の中年男性二人は若い頃から裏社会に慣れ親しんで来た人間であり、自分も彼らと似たような人生を歩んでいるという読み手はほぼ間違いなくいないでしょう(というか、いたら逮捕)。よって怪異の演出に日常と非日常の落差を使えず、下手するとどっちつかずで終わってしまう非常に難しい舞台設定なのですが、作者様はそこを確かな知識と描写力でクリアしています。

 丹念な下調べに裏付けられた知識が、作中で述べられる裏社会や怪異にリアリティを与え、読者を作品世界の中に引き込むことに成功しています。また物語より知識紹介が先行して退屈な印象を与えることもありません。あくまでも主筋はクールでタフでアウトローな中年男二人の活躍劇。そしてそれが最高に格好いい。知識はあくまでも物語を面白くするスパイスです。

 全くの非日常を書いておきながら荒唐無稽なお伽噺では終わらない、驚くほど地に足のついた作品でした。なお、本作のキャラクターが裏社会の紹介をする「小説に使える裏社会知識」「小説に使える国際社会の闇知識」という作品も読み物として大変に優れているので、合わせて紹介しておきます。是非、まとめてご一読下さい。

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