この作品、本当にフィクションなのだろうか。
作者さんの圧倒的な知識量、その現実から延長した世界の物語が展開されている。設定に説得力や現実味を持たせるために後からつけたってより、現実から派生していったという感じ。
裏社会という、私たちの日常とはかけ離れた世界だというのにリアリティーを感じた。
私たちの知らない世界、知ろうとしていなかった世界。テロリストや密売人など、彼らを悪い奴らだと単純に考えていたが、彼らにもそれまでの人生があって、価値観があって、何より人間で。やっていることは肯定しないが、彼らを手放しに悪と言っていいのだろうかなぁ、と。表の社会から裏が少し見えるように、描かれた裏の社会から私たちの社会が別の方向から見えた気がした。
衝撃を受けたのは、外伝1『守りたいモノ』で描かれたとある一国の『王子』の話。
きっと私はそこの民衆側にいて、王子の考えなど気づくことはないだろうし、気づくことを王子も望んではいないのかも知れない。
人々が一緒になって行動するには、明確な悪が必要だ。その悪を倒すために人々が手を取り合うことができる。
でも世界を変えるために自分を犠牲にしたら意味がない、と私は考えていた。自分が変わった世界を観測することができないからである。でも、自分の代わりに子供が生きてくれたら……(私が大人になった時にもう一度読んでみたいと思った)
死後の世界なんてものは全くのウソであり、そんなものないと思っていた。ただ、この作品を読んで、人の思いや魂ってもんの強さは図り知れないものであって、仏さんも神さんもちゃーんといるんかなぁって。
多くの国で国ごとの宗教観がある。神さまとかの定義って一つの正解があるんじゃなくて、その国に寄り添ったもの何だなぁと。いるいないじゃなく、信じることに何かがある。
本作のメインキャラは2人の40代のおっさんで、2人とも色々なものを抱えているが、自分の興味があることに目を輝かせる姿などが印象的です。互いが遠く離れた地にいても、助け合い必要としている、その信頼感が良かったです。
戦闘描写も、この作者さんいろいろ実際にドアをブチ開けたりしてみたりしていそうだな、と思うくらいに非常に細かくて。負傷や応急処置。流れ出た血が生々しくて、ハリウッド級の映画を見ているような気分でした。
本作は『撃ち落とされるまで、あと何分?』の少し前の話だそうなので、先にちょっと読んでみようかな、というきっかけでしたが読み始めたら止まりませんでした。
とても面白かったです(『ロシアの地にて 雑記』まで読了 )。
『撃ち落とされるまで、あと何分?』が今からとても楽しみになりました。
人間臭い奴らの話を読みたい方は、ぜひご一読を。
裏社会に生きる銃器のブローカー&ディーラー・イザと、呪われた家系に生まれた大会社のCEO・御堂圭吾が、人ならざる者たちに立ち向かう…もとい鎮めたり宥めたりする連作物語です。
ホラー的な要素も多分に含みつつ、人ならざる者たちがただ怖いだけでなく、非常に人間臭く描かれているところが魅力です。
さらに、豊富な裏社会や銃の知識が、舞台設定やアクションシーンを説得力のあるものにしています。
アクションシーンは、血飛沫が上がる様子やその場の匂いまで伝わってくるようで、真に迫っていて格好いいです。
こういった点が、作者さんの個性が強烈に光っているところだと思います。
主要なキャラクターたちは決して軽くないものを背負った人ばかりですが、どこかお茶目で飄々としているところが粋ですね。
個人的には圭吾さんとアウリスさんのエピソードが一番好きです。
『撃ち落とされるまで、あと何分?』をお読みになった方はぜひ、こちらもお読みになって雰囲気の違いを堪能してみて下さい。
片や難民キャンプ生まれの闇の商人、銃のスペシャリスト。
片や一流企業の社長にして由緒ある家柄の家長、剣術の達人。
2人のおじさんが怪異を相手取って渡り合う。
民俗学風味のハードボイルド・ファンタジー、とでも言おうか。
人生の酸いも甘いも噛み分けた、と表現するには、
おじさんたちは怖がりだったり子どもっぽい顔をしたりする。
こちらを殺しに掛かってくる人間の敵には容赦がない一方で、
此岸に絡め取られた哀れなモノたちに対してはとても優しい。
人々に忘れ去られた寂しがり屋の神さま。
子孫を思う余り、呪いを重ねる人形たち。
姿の在り方が人間と違い、人間よりも純粋な心を持ち、
それゆえ恐れられる彼らに、おじさんたちは救いの道を示す。
悲しい運命を背負った異国の「王子」の物語は、
その実、それほど遠い世界のことではないのだろうと思う。
今や先進国気取りの日本も、数十年前はどんなふうだった?
世界中の人間の社会は、まだそれほど上等なものじゃない。
ロシアの地で唐突に、生きた人間たちの暴力にさらされ、
逃げ延びた先で、土地に根付いた不思議なものと出会う。
貧困等の社会問題、戦争や政治問題に起因する不幸の数々。
不条理に苦しむのは、人も人にあらざるものも同じ。
国籍さえわからない孤児上がりの闇稼業だとか、
おぞましい遺伝病を伴う呪われの血筋だとか、
おじさんたちが背負うカルマは生易しくないものの、
子煩悩だし人間臭いあたりが、何とも言えず、すごく好きだ。
非日常と非日常が交わる話。この作品を一言でまとめるならば、そういう表現になるでしょう。
いわゆる怪異ものにおいて最も強くその恐怖を演出するのは「落差」であり、ゆえに平穏な日常の中に怪異を潜ませるパターンが多いのですが、本作はその手法を取れません。主人公の中年男性二人は若い頃から裏社会に慣れ親しんで来た人間であり、自分も彼らと似たような人生を歩んでいるという読み手はほぼ間違いなくいないでしょう(というか、いたら逮捕)。よって怪異の演出に日常と非日常の落差を使えず、下手するとどっちつかずで終わってしまう非常に難しい舞台設定なのですが、作者様はそこを確かな知識と描写力でクリアしています。
丹念な下調べに裏付けられた知識が、作中で述べられる裏社会や怪異にリアリティを与え、読者を作品世界の中に引き込むことに成功しています。また物語より知識紹介が先行して退屈な印象を与えることもありません。あくまでも主筋はクールでタフでアウトローな中年男二人の活躍劇。そしてそれが最高に格好いい。知識はあくまでも物語を面白くするスパイスです。
全くの非日常を書いておきながら荒唐無稽なお伽噺では終わらない、驚くほど地に足のついた作品でした。なお、本作のキャラクターが裏社会の紹介をする「小説に使える裏社会知識」「小説に使える国際社会の闇知識」という作品も読み物として大変に優れているので、合わせて紹介しておきます。是非、まとめてご一読下さい。
現時点での最新話に当たる「ロシアの地にて 雑記」までの感想となります。
まずはその並々ならぬ知識に裏打ちされたリアリティある描写に圧倒されました。主要キャラ二人が共に四十代というやや高めの年齢設定も珍しく、これが〈大人の物語〉であることを再認識させられます。
もう一つの特長たる伝奇的要素もまた物語上の単なるスパイスに留まらず、ジャンル編成により新設された現代ファンタジーと呼ぶに相応しい
ものです。浅瀬でバチャバチャ戯れるようなライトなファンタジーも少なくない中、こちらは細部まで作り込まれた設定にどっぷり浸かれます。真実味が違うのです。
リアリティとファンタジーの華麗なる結婚。安易なミクスチャーとはおよそ次元の違う、ジャンルの壁を軽々と突き破る驚異的快作の胎動を感じます。
ロシア編の次は、どのような世界へ読者を導いてくれるのでしょう? とても楽しみです。