目に見えなくても、そこにいる。悲しくて優しい何かが、誰かが。

片や難民キャンプ生まれの闇の商人、銃のスペシャリスト。
片や一流企業の社長にして由緒ある家柄の家長、剣術の達人。
2人のおじさんが怪異を相手取って渡り合う。
民俗学風味のハードボイルド・ファンタジー、とでも言おうか。

人生の酸いも甘いも噛み分けた、と表現するには、
おじさんたちは怖がりだったり子どもっぽい顔をしたりする。
こちらを殺しに掛かってくる人間の敵には容赦がない一方で、
此岸に絡め取られた哀れなモノたちに対してはとても優しい。

人々に忘れ去られた寂しがり屋の神さま。
子孫を思う余り、呪いを重ねる人形たち。
姿の在り方が人間と違い、人間よりも純粋な心を持ち、
それゆえ恐れられる彼らに、おじさんたちは救いの道を示す。

悲しい運命を背負った異国の「王子」の物語は、
その実、それほど遠い世界のことではないのだろうと思う。
今や先進国気取りの日本も、数十年前はどんなふうだった?
世界中の人間の社会は、まだそれほど上等なものじゃない。

ロシアの地で唐突に、生きた人間たちの暴力にさらされ、
逃げ延びた先で、土地に根付いた不思議なものと出会う。
貧困等の社会問題、戦争や政治問題に起因する不幸の数々。
不条理に苦しむのは、人も人にあらざるものも同じ。

国籍さえわからない孤児上がりの闇稼業だとか、
おぞましい遺伝病を伴う呪われの血筋だとか、
おじさんたちが背負うカルマは生易しくないものの、
子煩悩だし人間臭いあたりが、何とも言えず、すごく好きだ。

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