断絶という絆

この物語は視えない兄と視える妹の視差から来るある種のミステリーとなっている。

ほとんどの読者と同じく主人公は、怪異を察知できない。彼の感覚の網に飛び込んでくるのは、私たちが暮らしているようなごく普通の日常である。

一方、妹である言鳥はまったく別の世界に住んでいる。この世ならざる存在と日常的に触れ合っている彼女と兄との間には深い断絶がある。

このあたりは切なくもありユーモラスでもある。また芥川の『藪の中』のような真実を巡る多角的視点にもなっているところが面白い。

読み進めていくとこの兄妹の断絶が実は断絶でないことに気付く。ふたりはそのギャップによって相互補完的な存在となり、結びつき合っているとも言える。

妹は兄を守っていると思い込んでいるが、うろんなものを視ない兄の日常性に守られているのは妹の方かもしれない。

またこの不思議な兄妹をさらに外から観察する布津が第三の視点としてどんな役割を果たすのかは、続編に期待したい。

この作品の魅力は、プリズムのように色合いを変える「現実」と言われるものの捕え難さを丹念に描いているところだと思う。青春ものとしても学園ものとしても読者自身が多角的に向き合える素晴らしい物語。

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