その先にあるのは実怪か虚怪か――それはさておき妹かわいい

井上円了は妖怪を分類した際に、実怪と虚怪という言葉を用いました。「まこと」の怪と「うそ」の怪。


さて、この物語の主人公が求めるのは、そのどちらでもないのです。彼――暮樫或人はただ、怪異というものの本質に近付きたいと願う。存在非存在には無頓着ですらある。

なぜなら、彼にとっては妹こそが第一であるからです。妹!

妹――言鳥に対し、彼は全幅の信頼を置いています。言鳥の見たものなら信じるとすら(キャッチコピーでも)断言しているほどです。

ところが両者は食い違います。或人は己のスタンスを崩さず、妹は「見える」人間として至極当然の行動を起こす。

鈍感だと片付けられる或人の行動ですが、それは本当か? と疑ってしまうような場合すらあります。ひょっとして、おかしいのは言鳥のほうではないか? 怪異の存在と非存在を問わない或人のほうが、ひょっとしたら正しいのかも……?

そして軽妙な会話劇が続く話の中で、ちらりと垣間見える不穏な空気。いや、怪異を扱うのだから不穏なのは当然なのですが、それを上回る不穏さが渦巻くのが曲者です。


でも、きっと大丈夫。主人公の行動原理は明確です。

妹かわいい!

それさえあれば、彼はどんな困難も乗り越えてくれるはずです。

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