怪異の存在を問う、霊能ゼロ少年の怪異譚

妖怪小説なのに主人公には特殊な能力がなにもない──どころか、そもそも妖怪の類いが見えないし感じられない。そんな彼が学校を舞台に頻発する怪異事件に飄々と対処していく小説です。どこまでもマイペースかつあらゆる意味で鈍感な主人公と、伝奇ものの主役みたいな能力を持った妹(超可愛い)の世界観の食い違いぶりが見ていて楽しいです。主人公に呆れながらも付き合う友人もいいキャラしてます。
一口に妖怪といっても国や地域、共同体ごとに差異があり、ある地域の妖怪が別の場所ではまったく知られていないということはよくある話です。また、当時の風俗を織り込んだ洒落で創作された妖怪が、現代ではそれと分からず伝承のある妖怪とごっちゃにされてしまうこともしばしばです。妖怪がちゃんとした形で存在するには文脈が共有されていることが必要であると言え、妖怪を感知しない世界に立っている主人公が妖怪の影響を受けないというのは、現実の妖怪の在り方を巧みにフィクションの設定に落とし込まれたと思います。
あくまで鈍い主人公の裏でいくつもの不穏な要素が蠢いており、続編で何が起きるのか楽しみにこれから読もうと思います。

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