第13話折れるようなものではないだろう
「折れているわ」
しゃがみこみ、感染者のその損傷の具合を調べていた、枯木が言った。
俺はまだ、心臓の鼓動を落ち着かせるのに、必死だ。
「気管支もひどいものだけれど、首の骨が折れているわね」
首の骨は、もともとたくさんあって重なっているタイプで、折れるようなものではないだろう。
………という言い分もあったが、触診する枯木は、淡々と言った。
「………動かないのか?」
「そうね―――脳からの信号で動いているという点では、私たちと同じよ」
この女の触診が正しいのか、疑いたかった。
既に何らかのエキスパートであることは分かっているのだが、どこまでこの状況を知っているのか、わかったものではない。
「―――一応の危機は脱したかもしれないけれど、時間がないわ、行きましょう」
「行くってどこに」
「三年三組よ、そこに仲間がいるわ」
いや、それよりこの曲がった鉄パイプみたいな首をした感染者を、治す手立てをと言いたかったが、聞きたかったが。
俺が、やったことだ。
信じがたいことに俺がやったことであるし。
しかし追い詰められているのは、俺たちも同じ。
そうだ、危機に瀕しているのは俺たちの側だった、忘れていたが。
この広い学校で、俺たち五人は孤立無援でさまよっているのだった。
何とかしなければ。
「三年三組に―――な、仲間?」
枯木は、俺が悩んでいる間に既に歩き出していた。
半藤は、俺を奇異の眼で見ていて、大きく目を見開き、疑うような表情であったものの、すぐに枯木の後ろに駆け寄っていく。
廊下に、砂を踏むような音が反響する。
秋里さんも、そうだ。
枯木からもう離れないほうがいい、彼女は。
臼田が寄ってきた。
「骨を、折ったのか?手で握って」
俺はとっさにこたえる。
「もろかったんだろう―――ホラ、病気だから、あの男」
大声になりかけて、臼田は慌てて、周りを慌ただしく見た。
俺は内心、ほっとした。
俺がさっきまでの出来事について考えながら歩いている間にも、敵は出現する。
枯木が二人、三人と、感染者に対して銃を使っていたらしいが、俺は散らかった足元を、眺めながら進む。
音がしないように進む配慮では、あった。
ぱすん、という音が聞こえたが、俺にとっては重要性が薄い。
俺は―――人を殺した、のか?
廊下の後方を見るのが怖かった。
関わり、すぐに捨てたみたいにはなった次に進むという状況も、良心が咎めた。
あの感染者が一歩も動いていないのが、指先を動かさないのが。
まわりの人間に、その事柄について話しかけられるのも怖かった。
………おれは、助けたんだ、秋里さんを。
良いことをした。
良いことをしたのだ。
「枯木くん」
「―――な、なんだ、次からは銃を使えよ!お前を、お前の銃なら」
「前を見なさい、前を見て歩きなさいという意味。三年三組よ」
「………?さっきから、それでどうだっていうんだ、三年三組に何があるって」
もう到着するところだったが、俺は状況の変化を、理解する。
三年三組には入ったことがないし、上級生の教室だから生徒の名前もろくに知らないのだが―――。
その教室の入り口付近で、首元に青いスカーフを巻き付けた男子生徒が、一人いた。
彼はこちらに向かって、手を振っている。
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