第17話それならよかった


「音楽室か―――確かにそれならひと悶着もんちゃくあったよ」


 青スカーフの………青樫は言った。


「―――メトロノーム」


 しかし終わったことだからか、安堵している風に呟く。


「音って、もしかしてメトロノームのことかい?」


 場が静まり返る。

 そして俺は、音楽室方面へ向かう前に聞いた音を思い出す。

 そう、かち、かちと音が鳴り――――しかし時計ではない、不思議な音。

 メトロノームは確かに音楽室か、その準備室に置かれているはずだった。


「ああ、そうだったの―――」


 枯木も声を出した。

 臼田が飛びつく。


「ああ、それならよかった―――爆弾かと思ってひやひやしたぜ」


「なにを突拍子もないことを―――」


「………メトロノームな、だけに」


 拍子。

 一瞬どういうことかわからなかったが、ツボだったらしく、

 くすり、と秋里さんが笑った。

 俺は驚いたが、少しうれしい。


「爆弾はないだろ」


「だ、だってよぉ………ワクチン銃とか、使ってるじゃねえか、そのまま爆弾とか出てきても」


 青樫が校舎側を見て、説明する。


「彼らは五感がひどく曖昧になっていてね―――それでも音がする方向に近づく節がある。メトロノームじゃなくてもいい、なにか音が出ればいい………最初はドラムとかならしたんだけどね」


 そんなことがあったのか。

 音楽室側に集まったら、つまり三年三組側にはいかないだろう、奴らは。

 誘導した。


「あのぅ、俺………軽音楽部ですから、だからつい心配になって」


「ああ、そうなのかい?」


 それから、青樫と臼田は少し、その話をしていたが軽音楽部で無事だった部員の話などをしたが知らない名前ばかりなので目を逸らす。


「枯木―――」


「なぁに」


 俺は『そのこと』について尋ねようかと思ったが、結局口が動かなかった。


「………いや、なんでも、ない」


 枯木は特に俺に興味なさそうにして、安堵のため息をついた。

 とりあえずの危機は脱したのだ。


「しかし、爆弾ね………なるほどそういう手もあるな」


 青樫が言った。


「ある意味最終手段だ………考慮に入れていい。吹き飛ばせば突破しやすいし、なにより、この地球上のあらゆるウイルスは、高熱に弱い」







 その日の夕方、俺は自宅に自力でたどり着き、ニュースで学校の騒ぎを知った両親の、絡むような追及を逃れ、ベッドで一人、床に就く。

 流石に親も、まあ無事だったならよかったけれど―――と。

 まだ問題は残っていた。

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