第13話
「う・・・あ?」
ちろちろと冷たい何かが頬をなめる感触に、ナガメを目を覚ました。
目を開けると白く、角ばった頭の蛇と目が合う。シロだ。シロはナガメの胸の上にとぐろを巻き、しゅーしゅーと息を吐き出していた。
ナガメが起きたことを知ると、嬉しそうにちろちろと赤い舌でナガメの頬をなめた。
しばらく、それをぼんやりと見つめてから、ばっとナガメは跳ね起きた。ぼとりとその胸からシロが砂の上に落ちる。
「シロ、無事!?」
「しゅー」
大丈夫とでもいうようにまた舌を出すシロに、ナガメはほっと安堵のため息を漏らした。それから辺りをきょろきょろと見まわす。
入り口にあったものより濃い色合いの紅水晶がところどころに隆起していて、それの根元地面との境目に生えている草くらいしか見るものはなかったが、その草にナガメは目を止めた。
「シロ、これイーサ草だ。・・・ってことは地下3階以降なのかな」
「しゅー」
「っていうか皆は? シロ見かけた?」
「しゅー」
ふるふると緩慢に首を横に振られて、ナガメは頭を抱えた。若干顔を青ざめさせて、どうしようと呟く。
(あんなところに落とし穴系、しかもこんなに深いのあるはずがないのに・・・!)
ここは
ここから出ようにも現在地がどこだかわからない以上下手に動くのは危険で、上に通じる階段がどこにあるかもわからない。何より、魔物が出てきた場合ナガメは近接戦・・・それもダガーナイフ2本しかない状態で応戦するのは不可能とは言わないが難しいだろう。
そこまで考えたとき、はっと背中を確認する。リュックサックを背負っていてほっとした。もしこれを手放していたら、丸腰で魔物と対峙しなければならない。
即死だ。
「とりあえず、皆を探しに行かないと」
「しゅー」
そう言い放ったナガメの耳に決して遠くはない、大きな紅水晶の向こうから。
咆哮ともいえる鳴き声が聞こえてきた。
ぎゃおおおおおおおおおおおおおおん
紅水晶の壁すらびりびり震えるその声に、ナガメはシロと目を合わせた。
その顔は先ほど以上に青ざめている。砂の床に、ぺたんと尻もちをついてナガメはシロに囁いた。
「さっきのって・・・さ」
「しゅー」
「ド、ドラゴンだったり、しないよね?」
「・・・しゅー」
小さいころ両親に連れられ見に行ったドラゴンの鳴き方にそっくりなそれに、ナガメはおそるおそるシロに問いかける。結果はわからないと言いたげに頭を振られたが。
「か、確認しないと・・・」
「しゅー」
「もし皆がいた場合、助けないと」
「しゅー、しゅー」
「わかってるよ、おれには何の力もないことくらい。でも、助けないと!」
「しゅー」
「わかってる。とりあえず確認だけだから」
無茶だ無謀だとシロに鳴かれ、とりあえず確認するだけだからとナガメは言いくるめる。班メンバーたちがドラゴンに襲われていたら、たとえ自分が肉壁になってでも助けようという心づもりだったがそれは言わなかった。
からだにしゅるしゅると這い上ってきたシロをいつものように首に巻くと、足腰に力を込めて立ち上がる。
「あんな高さから落ちて来たんだ・・・」
「しゅー」
「よく怪我しなかったよね」
ふと上を見たながめは、紅水晶で覆われた優に4km以上は離れた天井を見上げる。当然落ちてきた穴はふさがっているから見ることはできなかったが。だが、この高さから落ちて無事であると言うことがどれだけの奇跡であるかとナガメはぐっとこぶしを握った。
「シロ、どうして怪我しなかったかわかる?」
「しゅー」
「だよね」
わからないと言いたげに横に振られた首に、ナガメは笑い返す。荷物を背負ってたおかげかな、とナガメは小さく呟いた。中に入っていたものがクッションとなって、衝撃をやわらげてくれたのかもしれない。
そうしながらその場を立ち去ったナガメは。人型に、致死量と言ってもいいほどの血液が地面にこびりついていたことを知らない。特に頭部から流れ出たと思われるそれに。気が付かなかった。
ただシロが1匹、振り返ってそれを一瞥しただけだった。
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