第6話
「おい、クソガキ共」
この時、淡々と司会役に徹し今まで口を開かなかった男、教壇に立つ担任教師・アマツ・ダイゴが低く声をかけた。
不機嫌そうに目を細め、窓からの光にきらりと輝くスキンヘッド。大柄で焼けた肌、腕を組んで、うっとおしいとでもいうように吐き捨てた。
「お前ら、そいつは入試の筆記トップだ。50点じゃなくて55点。満点以上の頭の持ち主だ。それが分かったらうるせえから黙んな。じゃねえと」
ぎろり。鋭い眼光で最初に煽った黒髪の少年を睨む。その百戦錬磨とでも言いたげな目線に少年がたじろぐ。
一瞬で教室が静まり返った。
「この場限りでさよならしてもらうぜ」
ぴやりと急に下がった温度が頬をなぜる。
それは上半身と下半身がですか?
思わず教室内、全員の心が一致した瞬間、そう思わせるほどの威圧感が襲った。
おそるおそる頭を上げるナガメ。ざわついていた皆が下を向く中で唯一頭を上げたナガメに。アマツはぱちんとウインクを1つした。
スキンヘッド、筋肉隆々のおっさんからのウインクである。ナガメは若干頬を引きつらせて笑った。
心配そうな顔をして後ろを顔だけ振り返っていたホウコは、どうかしたのかと言いたげな顔をしていたが。
「静かんなったな。わかりゃあいいんだ。次の奴、とっとと自己紹介しな」
「は、はいっ!」
がたんとあわてて椅子をひく音がして、少女の声が自己紹介を始めた。
そうして2人、3人と過ぎたとき、あの少年の番になった。
「タザキ・ショウゴだ。俺はお前らみたいな雑魚とは違う!俺はティオヴァルトにすらできなかった迷宮踏破120回越えを達成する男だ! 以上」
荒唐滑稽な話だ。無理な話だ。そんな風に話を遮ることも出来たかもしれない。だが、なぜかそんな気にはならなかった。先ほどバカにされたナガメですらも、この子ならやれるかもしれないと思ってしまった。
少年の言葉には、どこか人を惹きつけてやまない、こいつならできると思わせる何かがあった。カリスマ性とでも呼べばいいのだろうか。
ショウゴが椅子をひいて座ると、全体からまばら一部からは熱い拍手とともによいしょする声が聞こえた。それに手を振るとショウゴはおとなしく、だが行儀悪く身体を崩した。
「次の奴、とっととしろよ」
「あ、はい!」
少女があわてて立ち上がったのを皮ぎりに、次々と進んでいく。
そうして12番目。これまた男子だった。さらさらの青毛に黄色い目、高級な猫のような雰囲気の少年。ショウゴにも勝る美しい顔には大きな4本の爪痕があった。
すっと音もなく立ち上がると、少年は静かに口を開いた。
「ヨマチ・コヒラだ。俺は仲良しごっこをするつもりはない」
また適度にざわついていた教室が大きくうねる。斜め後ろの席からぽかんと口を開けているホウコの横顔がナガメの目に入った。
「仲良しごっこって・・・」
思わずつぶやいたナガメの声が聞こえたのかは知れない。ただ、ぐるりと振り返った青毛のコヒラから鋭い一瞥をもらった。
なぜそんな目をされるのか全く分からず、目を白黒させていると。びっとコヒラは人差し指でナガメを示した。
「お前みたいに朝っぱらから女といちゃいちゃしている奴はなおさらだ」
以上だ。そう言ってコヒラは何事もなかったかのように席に着いた。
一気に悪くなった空気中、気まずげに次の少女が立ち上がって自己紹介を始める。それを聞きながら、ナガメはがっくりと机に突っ伏した。
(な、なんか変な人たちに目つけられちゃったな)
家に帰りたい、と心の中で泣きながらナガメは呟いた。
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