第9話

「ま、とりあえず課題と班決めだな。席順1番の奴から前に来い」


 教卓の中から上に丸く穴の開いた、正方形の箱を取り出すアマツ。成人男性の手のひらほどもありそうなそれを2つ、教卓の上に乗せると説明を始めた。


「こっちの赤いのが課題、緑のが班な。課題に関してはテスターや各自持参の道具の使用ありで、班同士の連帯もありだ。班は4人1組、全力で取って来いよ」


 適当感あふれていたが。

 そんなアマツを気にせず、席を立って教卓の前に行き、どんどん箱の中に入った紙を交代で取り出していくクラスメイト達。ホウコも椅子をひいて取ってきて、ナガメの番になった。ナガメも教卓の前まで行くと箱に手を突っ込む。底の方から1枚ずつ引いて、自分の席に戻る。


(無茶な課題だったらどうしよう・・・)


 どきどきと胸を高鳴らせながら席に着くと、さっそくと言わんばかりに前の席に座っているホウコが振り返る。


「なっくん、どうだった?」

「あ、まだ見てないよ」

「そっかー、私ね鈴生草のE班だったよ」

「ちょっと待って。・・・あ、おれ魔石とE班・・・一緒だ」

「ほんとっ!? やった! ・・・って大丈夫?」

「う、うん。平気」


 きゃあと嬉し気に声をあげ、紙を開いているナガメの両手を握るホウコ。ぼんっと爆発したかのように真っ赤に顔を染めたナガメに、心配そうにホウコが尋ねる。


 手を握られたまま真っ赤になった顔を隠すように自然と視線は斜め下へ。決して合わされない視線にホウコは不思議そうな顔をしていた。


「他の子だれかな?」

「えっと、いい子だといいよね」

「ねー。さっきみたいな子たちはちょっと・・・」

「ね」


 さりげなく手をすり抜けさせたナガメがまだほんのりと赤い頬で苦笑いすると、ホウコも苦笑する。いきなり絡んでくるような相手が班メンバーだとやりにくいことこの上ないだろう。


「おい、お前ら」

「タザキ、椅子から降りろ」

「ちっ・・・E班とっとと集合しろ」


 椅子の上に立ちあがったショウゴが、怒鳴るような声で上から呼びかける。すぐにアマツに注意されて鋭い舌打ちとともにあっさりと椅子から降りていたが。

 怒声にびびっったのか周囲はぐるりと円を描くように誰もいなかった。


 その声と内容に、ホウコとナガメはお互いの手の中にある班決めの紙をのぞき込んだ。


「E班って・・」

「言ったよね」

「あ、あの子と一緒かー。・・・不安しかないよう、なっくん」

「大丈夫、おれも不安しかないから」

「それ全然大丈夫くないよ!?」

「まだかE班とっととこいや!」


 いくら叫んでもこない班員たちに苛立ったようにショウゴの怒声が1オクターブ高くなる。腰ではかれたズボンに両手を突っ込みながら言うその様子はどう見てもヤンキーだった。


「い、行こうか、なっくん」

「う、うん」


 ホウコはウエストポーチを、ナガメは緑色の大きなリュックサックを背負いながらおそるおそる2人で固まりながらショウゴに近づいていく。暴挙と怒声のせいで円を描くように誰もいないそこに近寄ってきた2人にショウゴは目を止めた。それと同時に、ナガメたちと反対方向から近寄ってきた男子生徒にも。


「は? なんだてめえと同じ班かよぉ落ちこぼれ」

「っ!」

「ちょっと! なっくんは落ちこぼれじゃないってば!」

「なっくんだあ? ・・・はは、魔法使えねえんだろ? 落ちこぼれじゃねえか。っつか女にかばわれてる時点でなあ? お前もそう思うだろ?」

「落ちこぼれは知らないが。女にかばわれるなんて恥を知らんのか」

「やめてってば!」


 まじかよ2トップと同班! 必死にかばってくれているホウコには悪いが、ナガメの心の中はこの気持ちでいっぱいだった。


 うつむいてしまったながめをどう思ったのかはわからないが、獲物を甚振る猫のようににやにやとショウゴが笑う。その後ろでナガメを睨んでいるのはコヒラだ。


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