第4話
「んしょ、と」
少女が下りてくれたため、立ち上がって尻を払う。少女の方が先に立ち上がっていて、ナガメの動作を申し訳なさそうに見ていたが、ナガメは気付かなかった。
ナガメが少女の方を向く前に、少女はナガメに向かって深々と頭を下げた。
「あ、あの」
「本当にごめん、びっくりしたよね!」
「いや、大丈夫だよ? おれもシロも子猫も無事だったし」
「・・・本当?」
「うん、本当」
「そっか、よかった」
そこでやっと頭を上げた少女はにっこりとナガメに笑いかけた。
ブレザーについているバッチがナガメと同じ青色なため同学年なのだろう。健康的な肌色に、くりくりとした瞳が愛嬌のある少女だった。
ブレザーのスカートからのぞく足は黒いタイツに包まれており、カモシカのように形の良い足だった。ブレザーのベルト部分につけられたカードには<流動>と書かれた赤い魔石が埋まっていた。
笑いかけられて、ナガメは照れた。結果。
ばちん!
「ど、どうしたの!?」
「いや、ちょっと蚊がいたから・・・」
「まだ4月だよ!?」
思いっきり両頬をセルフビンタしたナガメに若干引きつつも、気の早い蚊もいるんだねと言ってくれるあたり、少女のやさしさがうかがえる。
おかげで真っ赤になった頬は隠せたため、ナガメ的には問題なかった。いや、痛いけれど。じんじんうずく頬に少し涙目になりながらふと感じた違和感に足もとを見ると。
「あ、シロ」
いつのまにか木から降りて来たらしいシロが、ナガメの足元にとぐろを巻いていた。春の日差しに白い鱗が虹色に光る。あいもかわらず綺麗な白蛇だった。
呆れたように見上げてくる青い目は、さっきのナガメの醜態を見ていたらしい。あははとから笑いするとため息でもつくかのように、赤い舌がちろちろと出された。
「君のテスター、綺麗な子だね!」
「うん。シロっていうんだ、男の子なんだよ」
「青い目・・・青目持ちなの?」
「ううん。ただ青いだけみたい」
「そうなんだ、綺麗だね」
極々まれにいるのだ。加護持ちでもないのに目が青い人や生き物は。
それでもほあーと言いながらかがんでシロを見る少女の目は、きらきらと輝いていた。まるで綺麗な宝石でも見ているかのような視線に、シロは首を下げそれがすくめているように見えて、思わずナガメは笑った。
「ほあー。私もテスター持ってるんだよ!
「あ、粟? 個性的な名前だね・・・」
「でしょー、3日間考えたんだよ」
正直言ってもっとマシな名前はなかったのか、あっただろうと言いたかったが。
ナガメはぐっと堪えた。少女は必死で考えたのだろうし、他人である自分が口出しすることではないと。桜にまみれながら何か言いたげにぐっとこぶしを握った。心なしか、シロの青い目も何か言いたげだったがそれは無視する。
「っていうか、えっと。なに君?」
「あ、ナガメ。スザキ・ナガメです」
「なっくん! いそがないと遅刻しちゃうよ」
「え・・あ、本当だ!」
腕時計を見ると時間は8時35分。朝礼は8時45分からと聞いていたため、走ってぎりぎりだろう。気づけば自分たち以外の生徒は道に居なくなっていた。
余裕を持ってきたはずが、思ったよりも子猫救助とその後に時間を食われてしまっていたらしい。
ナガメはあわててシロをカードに戻すと、少女がぱしりとその手を掴んだ。
「え?」
「私、スガ・ホウコ! クラス表、玄関にはってあるらしいから早く見に行こう!」
「う、うん!」
2人は手をつないだまま玄関へと走っていった。
途中で女子と手をつないでいることに気付き、爆発しそうになったナガメの事は余談だ。
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