第5話
「名前はスガ・ホウコです。テスターは<流動>で、夢は
学校生活の始まり、その初日。名前の順で決められたナガメの席は、廊下側から2列目、前から3番目の席だった。男女混合らしく、前の席にはホウコが座り、担当教諭が来るまで2人で同じクラスでよかったねと雑談していた。
ホウコが言うには、このクラスの担任は迷宮踏破者であるらしい。どこからそのような情報を仕入れてくるのか、ナガメはホウコに驚かされっぱなしだ。
クラス替え、一年に一度のルーチンワークともいえる恒例行事。
そう、自己紹介の時間だ。
元気なはきはきとした口調に、まばらに拍手が起きる。中には「立命とかお嬢様校じゃん」と盛り上がる一部もいたが。
照れ臭そうに椅子をひき、ホウコは座ってナガメを振り返った。
次はナガメの番だと言いたいのだろう。にこっと笑いかけられた。
(お、女の子に笑いかけられた!)
それにちょっぴり頬を染めつつ、ナガメはがたんとそのまま立ち上がった。
「スザキ・ナガメです。テスターは、えっと。<白蛇>で、夢は
ここら辺の男子校と言うだけで、幼小中と上条男子校なのだと伝わる。
平々凡々とした、あの男子校に。
ナガメはテスターのあたりで、あいまいに笑って席に着いた。
ざわりとざわめきが大きくなって、ナガメを刺す。疑問を含んだ視線がナガメを貫く。
考えるだけで痛くなりそうで、ナガメはそっと胃を押さえた。
「<白蛇>? 聞いたことないよね?」
「新種とか?」
「だとしたらこんなところに居ないだろ」
「ってことは嘘とか?」
「ついてどうすんだよ」
「っていうかさあ!」
騒がしさを覆うように出された大声に、ざわざわとしたざわめきがぴたりと止まる。
ナガメが声の主を振り返ると、金髪で襟足の長い少年がにやにやといやらしく笑いながらナガメを見ていた。
机の下に見えるスニーカーは踵を踏んでいて、その整った顔の横についた耳にはじゃらじゃらとしたピアス。着崩されたブレザーに、腰ばきされたズボン。不良だ、とナガメは悟った。
(あ、変なのに目つけられたかも・・・)
すでに白目になりそうなナガメだ。そんなナガメの様子には気づかない、というよりも歯牙にもかけない様子で、少年は厭味ったらしい口調で言った。
「なんかさあ、うちのクラスに魔法が使えない落ちこぼれがいるって聞いたんだけど、お前だろ?」
「は・・・?」
「<白蛇>っつー、ただの白蛇のテスター持ってるって有名だぜ?」
ざわっ。止まっていたはずのざわめきが口々に再開される。今度は好奇心と、悪意を持って。
「魔法が使えないって・・・落ちこぼれってレベルじゃないだろ」
「使えない奴なんているんだ。初めてみた」
「なんで探索者養成学校に入ってきたんだよ」
「今日グループ組んで課題やるってプログラムにあったけど、あいつだけとは組みたくねーよな」
ざわめく悪意にうつむいてしまったながめは、ホウコが心配そうに自分を見ていることには気が付かなかった。
ぎゅっとナガメは机の上でこぶしを握る。
(わかってたじゃないか。これくらい言われるの。大丈夫、おれはその分他で補えるように努力してきたんだ。だから)
心の中でいくら強がってみせても、じわりと目が潤む。それを感じて、ナガメは歯を食いしばった。ここで泣いたら、涙1つでも見せたら、ますます盛り上がってしまうのだろう、この悪意は。
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