第10話

「おい、そこE班。うるせえぞ、静かにしろ」

「先生ぇー、俺この落ちこぼれと同じ班とかいやでーす」

「てめえの好きで班決めしてるんじゃねえんだよクソガキ。それとも何か? そいつの不利を補えないくらい自信がねえと?」

「は? んなわけねえじゃん」

「じゃあ静かにしてろ、こっちは転移石の準備してんだ」

「ちっ」


 ショウゴは舌打ちするとしぶしぶ、行儀悪く椅子に腰かけた。

 があんっと足癖悪く机を蹴りあげて、ナガメを睨んだ。コヒラもなぜかナガメを睨み続けている。


 ナガメの怖い人ランキングに飛び入り1位2位をかっさらっていった2トップに睨まれて委縮するナガメ。そんなナガメを心配そうにホウコが背中を撫でてくれるのが嬉しかった。が、なぜかコヒラの睨み具合が強くなった気がした。


「おい、てめえ」


 機嫌悪そうに低い声で、ショウゴがナガメに話しかけてくる。下からメンチを切るように睨みあげられて、ナガメはびくっと体を震わせた。


「せいぜい足引っ張んねえようにしろよ、落ちこぼれ」

「う・・ん」

「だから落ちこぼれじゃないってば!」

「ふん」


 俯いてしまったナガメの代わりに食ってかかるホウコを鼻で笑うショウゴ。

 なぜかこの時ばかりはコヒラは睨みもせずにナガメをまっすぐに見つめているだけであった。


 それを数回繰り返し、すっかりホウコとショウゴが睨みあっているときだった。


「よし、準備完了。おい、ガキ共。これからA班から順に遊戯迷宮メイズに行ってもらうからな。実施ってことで転移石を使ってもらう。A班、来い」


 迷宮は何が起こるかわからないってこと、脳みそに刻んでいけよと締めくくり、呼び寄せたA班に転移石を握らせると、しゅんと一瞬にしてその姿が消えた。


「次、B班!」


 C班、D班と呼ばれては消えて。気だるそうな声が次々班名を呼んでいく中。

 とうとうナガメ達E班の番になった。


「E班、遊んでねえでとっとと来い」

「遊んでねえ!」

「遊んでないです!」

「いいから来い」


 アマツの適当感あふれる言葉に、同時に叫んだショウゴとホウコは互いをきっと睨み、そっぽを向いた。


 コヒラはただわれ関せずといった具合で2人の様子を見ているだけで。そんな2人の争う原因であるナガメはそっと頭を抱えた。


「と、とりあえず呼ばれてるし行こうよ」

「仕切ってんじゃねえぞ、落ちこぼれ!」

「だから落ちこぼれじゃないってば!」

「あー・・・うるせえ」

「んだと!?」

「てめえらは静かに移動も出来ないのか」


 がたがたと机の波をかき分けて移動しつつの会話に、呆れたようにアマツは眉をひそめた。うなだれ頭を下げたナガメとは対照的に、3人は先ほどまでの姿勢を崩さない。

 哀れみの目がナガメを見た。


「あー、スザキ。この班わけには悪意はない」

「わかってます、先生」

「・・・悪いな」

「・・・いえ」

「おいガキ共、転移石渡すから手ぇ出せ!」


 互いを睨みつけ合いながらもホウコは両手、ショウゴは片手をズボンにつっこんだまま開いた方の手を出す。手を出すににしても性格がわかると言うものだろう。ちなみに、ナガメとコヒラは無言で両手を差し出した。


 そこにぽいぽいと黄色い結晶の形をした転移石が1つずつ置かれる。なぜかコヒラの手の上には2つ。拳大のものと、みんなと同じ小指の爪ほどの大きさのものが置かれた。


「おい、なんでこいつは2つなんだよ」

「口の利き方に気を付けろつっただろ。班で行動してもらうからなリーダーに渡したでかい方はいざというとき、緊急撤退用だ」

「なんでこいつがリーダーなんだよ! 俺の方がふさわしいじゃねえか!」

「てめえ、お笑いなのは頭の中だけにしろ。・・・さて、出発だ。着いたらすでに中だから、頑張れよガキ共」

「頭がお笑いってどういう意味だこらぁっ!」


 ぎゃんぎゃん吠えるショウゴが先に消え、次にホウコ、コヒラと消えて最後の発動がナガメだった。

 ぎゅいんと身体を引っ張られては伸ばされるような感覚に一瞬耐えると。

 

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