第7話

「自己紹介すんだな。じゃ、次迷宮について復習すんぞ」


 いつの間に取り出したのか、銀の指示棒を右手に持ち、左手のひらをぽんぽんと叩きながらアマツが口を開く。

 どこか威圧感のある声に、ぴんとショウゴを除く全員の背筋が伸びる。


「先生ぇー、迷宮の事なんか幼稚園の時から習ってきてんですけど?」

「だから復習だって言ってんだろ。物覚えの悪りぃガキだな」

「なっ!・・・んだとこら!」

「やる気か、タザキ・ショウゴ」


 苛立ったように立ち上がったショウゴを冷たくアマツが見やると。ずんと一気に空気が重くなる。吸い込む息まで鉛を含んだような重量に、ショウゴがごくりと唾をのむ音が教室中に聞こえた。一気に変わった雰囲気に圧倒される。


 これが迷宮踏破者の威圧かとナガメをアマツを見ながら、圧迫感に知らず息をつめた。


「・・・まあいい。ここ迷宮について復習していけ。遊戯迷宮メイズで死にたくなきゃな」

「はっ・・・遊戯迷宮メイズでなんか死ぬかよ。たかが遊戯だ。お遊びで・・・」

「そういってこの授業を受けずに遊戯迷宮メイズに行ったお前らの先輩は死んだがな」

「え・・・」


 小さな声がナガメからもれ、それが案外教室中に響いた。

 ショウゴは大きく目を見開いて固まってしまっている。まさか遊戯迷宮メイズで死んでるなんて思いもしなかったのだろう。


 静まり返った教室にをぐるりと見まわして、アマツは投げやりに言った。


「ま、冗談だが」

「冗談かよ」

「口の利き方に気を付けろクソガキ。死んじゃいねえよ、死んじゃな」

「死んではないって・・・」

「どうしたスザキ、聞きたいのか?」

「いいえ!」


 にやりとアマツに笑いかけられて、あわててナガメは胸の前で両手を振る。結構ですのポーズだ。2人がやりとりしている間に、ちっと舌打ちを1つかますと、ショウゴはガタンと音を立てて席に着いた。


 それに目を細めたアマツだったが、何も言わずに振り返り黒板に白いチョークででかでかと戦略迷宮、遊戯迷宮と書いた。


 ナガメは急いで机の中にしまってあったノートを取り出して、それを筆記する。

 周囲の生徒たちも同じようにかりかりと書いている音が響く。


「まず、戦略迷宮ダンジョン遊戯迷宮メイズだ。この差はわかるか、タザキ」

「ちっ・・・戦略迷宮ダンジョンは冒険者や探索者が潜る迷宮で、遊戯迷宮メイズはお遊び用」

「適当だな、減点」

「はあ!?」

「じゃあスザキ、戦略迷宮ダンジョン遊戯迷宮メイズの差、ついでに探索者と冒険者の違いについても答えろ」

「え、あ、はい!」


 突然の指名に驚いてびくっと身を震わせたナガメ。前の席に座るホウコが軽く振り返り、頑張ってと口パクで言ってくれたことに頬を染める。

 アマツが先ほど戦略迷宮と遊戯迷宮と書いたものの上に小さく探索者、冒険者と書き加えるのを待ってからナガメは口を開いた。


「探索者というのは迷宮のみを探索し、探索者ギルドに所属することで受けられる依頼も迷宮関係のみです。一方冒険者は迷宮以外も探索しますし、冒険者ギルドに所属することで迷宮以外の依頼も引き受けます。住む場所も探索者は永住などがあり得ますが、冒険者はあちらこちらに根無し草です」

「合格。じゃあ戦略迷宮ダンジョン遊戯迷宮メイズについては?」

「ありがとうございます! えっと、戦略迷宮ダンジョンは戦略迷宮とも呼ばれ、主に冒険者や探索者が入る迷宮で、遊戯迷宮メイズに比べ出てくる魔物も多く、強く、罠も難解です。その分手に入るお宝・・・迷宮品は豪華なものが多いです。遊戯迷宮メイズは遊戯迷宮と言った名の通り、出てくる魔物も少なく弱いです。罠も少なく迷宮品も低ランクですが、決して危なくないと言う意味ではなく。あくまで『戦略迷宮ダンジョンと比べて』遊戯的であると言うだけです」

「いいだろう、座れ」

「はい!」


 褒められた子犬のように嬉気に声を上げると、ナガメはほくほく気分のまま席に着いた。そわそわどこか落ち着かなそうに照れてふにゃりと幼い顔をさらす。素直な教え子の反応に1つ頷くと、アマツは2つについて加え始めた。


「概ねスザキの言ったとおりだ。付け加えるならそうだな。ここ10年ほど戦略迷宮ダンジョン攻略者はいねえっつーことか。かくいう俺が踏破したとき、15年前が最後だな」

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