第13話 蟻の回路 ver.2.0(中編)

蟻の回路 ver.2.0


 先の世界大戦で我々の領地は奪われた。我々の聖地を、奴らは大国の援助とそのずる賢い、狡猾で、醜悪な頭脳によって奪い取った。これは聖戦だ。奴らは金にがめつく、姑息な手段をもって世界中から富を奪い去っていく。かの大国も奴らを利用しているつもりだろうが、逆に利用されていることに気づいていないのだろうか。いや、もはや奴らは世界中にネットワークを持っていて、権力を欲しいままにしているのだ。だが、世界中に同胞がいるのは我々も同じだ。

 世界中にいる我らの同胞が起こしたささやかな、しかし明確な抵抗は確実に奴らに恐怖を植え付けている。それはこの聖地のすぐ近くの我々に勇気を与えてくれる。聖地を取り返すのだ。

 この世界に神は唯一、我々の信じる神だけだ。神を信じないものには死あるのみ。奴らに死を。そして我らに聖地を。


「例の敵国のパイロットの消息は掴めたか。」

「不時着した戦闘機をご覧になったでしょう?それに積んであった水と食料は全部燃えて無くなっています。だったら遠くには行けないでしょう。せいぜいこの街までです。そしてこの街には死体とそれを食う虫くらいしかいないんです。ここでのたれ死んで虫に食われているんだと思います。」

「その話は何度も聞いた。しかし我が軍の元帥はできれば奴を生け捕りにして尋問したいと思っている。」

「奴が死んでいるのならこの任務は無駄でしょう。」

「いや、もし奴が死んでいたとしても、死体を持って帰ることを元帥はお望みだ。敵へのみせしめにするらしい。だから問題はこの街でどうやって奴を見つけるかだ。建物を一つ一つ確認するのでは時間がいくらあっても足りない!」


 そこへ、街の周辺を探索していた同胞が戻ってきた。


「この街から一番近い農場で、最近SOSボタンが押されていたようです。ディスプレイとキーボードが取り外されていたため、詳しいことはわかりませんが、どうやら緊急用の水と食料も持ち出されているらしいですね。」

「それが奴だという証拠はあるか?」

「それはわかりかねます。しかし、時期から見てその可能性が高いです。」

「この街を全て調べるしかないか…。待てよ。確かそのSOSシステムには携帯GPSが付いていたはずだ。それはあったか?」

「いいえ、わからないです。」

「もう一度調べるんだ。GPSが持ち出されているなら、その信号を追えば奴が見つかる。」

「了解。すぐに行きましょう。」


 今度は隅々まで農場を調べることにしよう。

 我々は2人全員で農場に行くための準備を始めた。




 ゴキブリの背中に乗ったカメラが、テロリストの会話の一部始終を送信していた。私はそれを映像で確認して、危機感を覚えた。このままではまずいことになる。助けが来るかもと思い、一応身に着けておいた携帯GPSが逆に敵を呼び寄せてしまう。奴らが農場に着くまでになんとかしなければ、どうやって…?どこかに捨てようか?いや、近くに捨てること自体にリスクがあるのでは?

 私は蟻の回路を立ち上げた。そうすると、女王蟻と、その子供が2、3匹、回路に繋がった。「他の蟻を触角に触らせろ」。複数の蟻が繋がることで、蟻の回路の性能は上がるのだ。この企みが成功した時は達成感のせいで思わず声が出てしまった。


「こんにちは。」

「こんにちは。」

「子供が全員成虫になったんだね、おめでとう。」

「ありがとうございます。」

「ところで、君の名前は何だろう?」

「私の名前は77号・ディル・オ・サンです。」

「それってどういう意味?」

「砂の都市、ディルの77番目という意味です。」

「ディルについて教えて。」

「砂の都市、私の故郷、すばらしいところ。」


 なるほどな。しかし77号では呼びにくいな。


「77号だからセヴェーナ(Sevena)と呼んでいいか?」

「名前を変える意味がわからないです。どうして?」

「親愛のしるしさ。」

「あなたの都市ではそうなのですか?」

「そうだね。」

「了解しました。ではあなたの名前は?」

「サムエルだ。」

「都市名と番号はないのですか?」

「ないね。」

「個体の識別が大変そうですね!番号をつけることを推奨します。」

「住民番号はあるけど、覚えてないなあ。」

「サムの都市とサムはずいぶんといい加減なようですね。」

「人間なんてそんなものさ。ところで、セヴェーナはさっそく私をニックネームで呼んでくれるんだね。」

「親愛のしるしです。」

「あはは。そうだ、もっとおしゃべりしたいのはやまやまなんだけど、早急に解決すべき問題があってね。君と私の命にかかわる問題なんだが。」

「考えてみます。詳しく教えて。」


 人間と蟻の作戦会議が始まった。奇妙な共生関係になった私たちは、人間の強みである個性と感情と、蟻の強みである虫の種の知識と論理的思考の両方を生かした作戦を組み立てていく。


「セヴェーナ、携帯GPSの問題だが、逆に罠として使うのはどうだろう?」

「なるほど、こちらの有利な地形に奴らをおびき寄せましょう。」


「ゴキブリ爆弾が主な武器となるので、私たち蟻のゴキブリに関する知識を教えておきましょう。」

「そうだな。よろしく頼む。」


 私が放った監視用ゴキブリが奴らの会話を適宜拾っている。奴らは農場のSOS装置を調べるようだ。




 我々は目的の農場についた。すぐに農場のSOS装置を確認する。するとどうだ。


「GPSは最近持ち出されている!奴は近いぞ!」


 さらに、俺は部下に命令を与える。


「GPS探知機を調整しろ。GPSの型番はSANY社のG-1989だ。」

「了解。明日の朝までには完成します。」

「よし、ついに奴を追い詰めた。懸賞金は我々のものだ。他のグループには知らせるなよ。手柄を横取りされてはたまらないからな。」


 その夜は部下にGPS探知機の調整をさせて、俺は眠った。3人で1人を捕えるとはいえ、1人は睡眠をとっておかなくては。

 翌朝、GPS探知機の調整を終わらせた部下が俺に報告をしてきた。


「場所がわかりました。」

「よし、すぐに向かうぞ。」


 我々はすぐに奴の潜んでいる(または死体になっている)家屋に向かった。建物に着く直前に部下があることに気づいた。


「あ、対象は動いているようです!GPSが屋内で動いています!」

「奴は生きているということか…。よし。お前ら2人で家屋に飛び込み、すみやかに奴を捕らえろ。」

「了解。」


 目的の家のドアの左右の壁に2人の部下がそれぞれ肩をつけるようにして立つ。俺は左の部下のすぐ後ろに立つ。

 部下2人が銃を持っていない方の手でタイミングを合わせる。


『3、2、1、GO!』


 部下2人は銃を構え家に飛び込み、そして爆発した。




 ひとまず、最初の策は成功した。GPSを取り付けたゴキブリ爆弾は私の囮になってくれた。そして、テロリスト2人を片付けた。彼らは即死だ。しかし、彼らの持つ武器も壊れてしまっただろうな。最後の1人は爆発させずに仕留め、武器を回収したいところだ。そして今、彼は叫んでいるようだ。


「やりやがったな畜生め!だがわかったぞ!お前の手元にはチンケなクソ虫爆弾しかないってことがな!薄汚い罠を張っていたのがその証拠だ!」

 

 私にゴキブリ爆弾しかないと断定するのはいささか能天気で、日和見な短絡的思考だ。ただし、今回に限っては彼の言う通りだった。チンケなクソ虫か…ゴキブリは私たち人類より、よっぽど昔からこの地球に住んでいる。1匹1匹は新聞紙で叩けば死んでしまうような弱さだが、種としての生命力は生物の中では一番ではないか。隕石が落ちても、絶滅しなかったのだから。ということで、ゴキブリたちの種としての強さを彼に見せてあげよう。

 ゴキブリに与えられる命令は、井戸掘りの時にしたような決まった動きをするか、個人を識別し、爆殺対象を直線的に追い続けるか、または蟻の回路による無線遠隔操作だ。その全てを使い彼を仕留める。爆薬の量は少量で、大多数のゴキブリは囮にする。そして1匹だけ遠隔操作で確実に彼の首の頸動脈を爆破するのだ。

 最初の罠を張った家の周りには大量のゴキブリ爆弾が仕掛けてある。そろそろ、動き始める頃だ。

 カサカサカサと最初のゴキブリ爆弾が動き始める。


「くそっ。来やがった。」


 叫びながらも周囲に細心の注意を払っていた彼は最初の1匹を見つけることができたようだ。ゴキブリは建物の屋上から壁伝いに降りてくる。彼は銃を構えて、撃った。銃弾はゴキブリの背中の爆弾に当たり、爆発した。私は驚いた。どうやら、ただのくじ引きで決まったリーダーというわけではないようだ。


「どうした?さっきよりも爆発が小さいな!これなら大分余裕を持って打ち落すことができるぞ!」


 2番目も、3番目も打ち落とされた。しかも、今度は爆弾を爆発させることなく、本体のみ狙撃された。彼はゆっくり見通しの良い広場へ移動しながらゴキブリたちを打ち落としていく。最初に動きを決められた方のゴキブリたちはもはや彼の位置まで走っていかずに明後日の方向で爆発する。そして、対象を追い続ける方のゴキブリたちの動きは単純すぎる。相手に直線的に向かっていくだけなので、動きを予測しやすい。しかし、これまでただの1匹も通さないとは、私は彼を侮っていたようだ。予定を早め、全戦力で叩こう。私はゴキブリ爆弾の全てを起動させた。




 ゴキブリを打ち落としながら広場へ出た。ここならばどこからクソ虫爆弾が来てもお見通しだ。アレの使われ方は頭に叩き込んである。冷静であれば容易に攻略できる。

 聖地の侵略者どもの手口は年々卑しくなっている。自分たちは安全な場所で呑気に殺戮を楽しんでいるだけ。自分の命を賭けずに目的を達成しようというのは甘い考えだ。そんなことでは獲物を、今の状況では俺のことだが、取り逃がしてしまうだろう。そして、報復で死ぬのだ。そうだ、これは戦略的撤退だ。部下が2人死に、状況が変わった。奴にとっては俺を取り逃がし、仲間を呼ばれることが最悪のシナリオだろう。本当は今すぐにでも本部に通信をしたいところだが、ひっきりなしに虫が来るこの状況では無理だ。ここが正念場だ。

 この状況、俺まで全くゴキブリが届いてないこの状況、奴は焦っている。その結果、戦力をぐっと増やす。もしかしたら全戦力かもしれない。それを返り討ちにしてまんまと逃げおおせてやる。焦るな。我慢して引き付け、確実に仕留めることが重要だ。

 今まで一定の間隔で現れていたゴキブリ爆弾がパタリと止んだ。次で勝負を決める気か。または油断させる気か。どちらにせよ、俺は遠隔操作のゴキブリだけに気をつければ良いのだ。たくさんの囮を用意し、1匹だけ遠隔操作で仕留めに来るのが奴らの常套手段だ。焦るな。焦るな。焦るな…


 ついにその時が来た。


 360度8方向からの同時攻撃。俺に向かって黒い点が8つ向かってくる。どいつが遠隔操作だ…?それともまだいないのか…?まずは一番近い奴に銃口を向けて打つ。銃弾は背中の爆弾に当たったが、爆発が小さいため、他の奴を巻き込むことができなかった。そして、すぐ右を向いて2匹目を仕留める。今度は本体だけに当たった。しかし、さすがにこの量は倒しきれない。俺は諦めることにした。ただし、諦めるのは”今すぐ助けを呼ぶこと”だけだ。

 俺は3匹目、わざと銃弾を2、3発外した。


「死ねっ!死ね!」


 引き付けて、油断させろ。俺がスキを見せれば奴は喜んで切り札である遠隔操作の爆弾を使ってくるだろう。自然にスキを見せれる時を俺は待つ。最も近いゴキブリの爆発した炎がギリギリ届かないとき…今だ!

 そして、俺が放った銃弾はゴキブリの背中の爆弾の芯を捉えた。


「くそっ!」


 爆風を浴びて目を潰されないように、伏せる。この動作は奴にはこう見えているはずだ。「敵は爆発から身を守るために地面に伏せ、その背中はガラ空きだ。」と。

 その一瞬の隙を作った後に、俺は電子パルス発生装置のボタンを押した。


 実際、いつ電子パルスを使っても良かった。ただ、これは通信装置まで壊してしまう短所がある。できるなら使わずに、そしてどうせ使うならばなるべく多くのゴキブリ爆弾を壊し、相手の戦力を最大限に削りたかった。

 私の周囲1kmのすべてのゴキブリ爆弾が動きを停止した。大多数の爆弾は地面に転がっているが、一つだけ、空から落ちてきた爆弾があった。他の背中に爆弾が乗っているゴキブリたちと違って、羽根の羽ばたきを邪魔しないように、腹に括り付けられた紐から爆弾がぶら下がっている。もはや発火機能を失った爆弾はボトリと地面に落ちるだけだった。

 間違いない。こいつが奴の奥の手だ。空から敵を狙うゴキブリ爆弾など、聞いたことがなかった。しかし、それも電子パルス発生装置の前では言葉通りただの虫けらに成り下がる。この装置は以前、敵の捕虜から奪ったものだ。略奪したものは無駄なく再利用する。確か、東洋の言葉で「勿体無い」というやつだ。


「死ねっ!死ねっ!」


 俺は地面に転がって気絶している飛行型の爆弾や、その他の走行型爆弾を、片っ端から足で潰していく。爆弾を外し、回収していく。これらの爆弾を回収し終えたら、奴の戦力はもはや無いに等しい、と思う。念のため、さっさとここから離れよう。

 あらかたの爆弾を回収し終えた俺に1匹の野生のゴキブリが、近づいてきた。回路を乗せていないゴキブリにはもちろん電子パルスは効かない。そして無害であるが、ゴキブリは今回の件でさらに憎むべき対象となってしまった。腹いせにそいつも潰す。するともう1匹、現れた。ムカつくが、また潰してもキリがないのでその場を離れようとした時、黒い大群が目に入ってきた。

 数え切れないほどのゴキブリの大群が私の方へ向かってくる。アレに飲み込まれると考えただけでゾッとする。どうしてだろうか。ゴキブリの恨みでも買ったのだろうか。どういう理由であれ、この電子パルスの効果範囲内であれば普通のゴキブリはもちろん、爆弾が背中に乗っているゴキブリも無害である。俺は意を決して、走った。運が悪いゴキブリは俺の足で踏みつぶされていく。しかし、暗い路地裏に入ったとき、そいつらを見つけてしまった。そいつらは光っていて見つけやすかったのだ。


 そいつらは『導火線のついた』ゴキブリ爆弾だった。


「うわああああアァアアア!!」


 柄にもなく女々しい叫び声をあげて、慌てて蹴飛ばした。しかし、次から次へと湧き出てくる。銃で仕留めようとも、大量のゴキブリたちに紛れて狙いが定まらない。どうやっているのかわからないが、全部のゴキブリが私の方へ、自動追尾の魚雷のように押し寄せてくる。その原始的で単純な時限式爆弾には電子パルスが効くわけもない。これを狙っていたのか!何重にも用意された罠、罠、罠!自分の手を汚すことなく、安全なところからこちらを嘲笑っていることだろう!だから奴らは嫌いだ!こうなれば、ゴキブリが爆発する前に一気に走り抜け、できる限り距離をとるしかない!


「ハァッハァッ…よし、今だ!」


 光るゴキブリの数の少ない方へ向き、一気に走り抜けようとした。その一瞬、何者かが背後から襲ってくるのを感じたが、焦りと緊張のせいで体は動かなかった。




 路地の角に潜み、一瞬で飛び出す。背後から彼の口と鼻を押さえて頭を固定してから、左耳下にナイフを刺し、喉を通って右耳下まで刃を走らせる。

 これで、終わった。やはり、最も信頼できるのは自分の体だな、と思った。結局、回路は電子パルスで無効化されたし、導火線にしても自由に爆破のタイミングを決められるわけではないのだから。 周りには導火線のついたゴキブリがウヨウヨしている。爆薬は仕込んでないので安全であるとはいえ、見ていて気持ちの良いものではない。私はポケットから、ゴキブリの死体を取り出し、地面に置いて、踏みつぶした。あらかじめ『危険を知らせるフェロモン』を貯めておいたこいつを潰すと、ゴキブリたちはみんな、建物の影や路地裏へと、方々に散って、いなくなった。この匂いを使うというアイデアは、セヴェーナからの発案だった。


「…というわけで、空中からの遠隔操作ゴキブリ爆弾により、相手の喉をピンポイントで爆破することができる。これで武器も回収できるだろう。」

「サム。それはとても良い作戦ですが、完璧ではありません。ゴキブリ爆弾はすぐに壊れるかもしれません。」

「いや、これはそんなヤワなものじゃない。電子パルス以外では壊れないよ。野生化したゴキブリ爆弾にしても、プログラミングコードにバグが入り込んだだけでハードウェアが壊れているわけではないんだ。」

「その電子パルスを使われたらどうするんです?」

「彼らの技術力はそこまで高くないんだ。ありえないよ。」

「では最近、彼らの捕虜になったあなたの仲間は?武器を奪われていないですか?」


 そう言われて、言葉に詰まった。私はインターネット上で公開されたある動画を思い出していた。首をナイフで切断されて死んだその同胞たちは、もしかしたら電子パルス発生装置を持っていたかもしれない。


「だがそうなると、この作戦をすべて白紙にしなければならないな。GPSを囮にして逃げるか。もしくは爆弾を手で投げて、爆殺するか。これは彼の武器も一緒に失うリスクがある。」

「いいえ、大丈夫です。電子パルス下でもゴキブリを操作する方法があります。」

「ほう、なんだ?」

「『フェロモン』を使います。」

「いやいや、匂いである程度命令を与えられるのはわかる。しかし、神経ジャックほどの効果を得られるとは思えないな!奴らは交尾している間だって、危険に晒されれば逃げることを優先するだろう!」

「いいえ、絶対的な命令の匂いというのはあります。あなたがた人間の嗅覚は退化して、とても弱い。匂いに支配されるという感覚を知らないからそんなことがいえるのです。」

「そんな匂い、ゴキブリの王様や女王やなんかにしか出せないんじゃないか?もしそんなのがいれば、の話だが。」

「そこであなたの回路の出番です。メスのゴキブリに『全エネルギーをかけてオスを誘惑するフェロモンを生成せよ』と命令を与えてください。とびっきり濃いフェロモンがいいです。敵がそれを潰してフェロモンを触ってしまったら…。これは見ものですね。」

「そうなると全てのオスのゴキブリが奴めがけて突進するということか。」


 彼が空から落ちてきたメスのゴキブリを足で踏みつぶした瞬間に、私たちの勝利は確定した。あとは彼の様子を見て、隙だらけであればナイフで殺し、装備を壊さずに奪う。そうでなければ、武器は諦めて、本物の導火線付きゴキブリ爆弾により、爆殺すればいい。彼は思ったよりも冷静な男であったが、結局取り乱した。もし私が彼の立場であっても、発情したゴキブリの大群がこっちに向かってくるのを目の前にして、正気を保ってはいられないだろう。


 かなり神経を使う作戦だった。その甲斐あって、余裕を持って砂漠越えをすることができるほどの装備が手に入った。水は農場と井戸で確保し、ラクダに運ばせる。万が一無くなっても井戸を掘ることができる。大量のゴキブリも生きたまま運ぶことができるし、セヴェーナたちの食べ物にも困ることはなさそうだ…。


 こうして十分な砂漠越えのための装備を得た私は、悠々と我が聖地への旅へと出発したのだった。

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