第14話 タイムマシンについてのとある事実.txt ver.1.0
タイムマシンについてのとある事実
今の時間:Now
到着時間:Future = Now + 0000:00:00:01:00:00:00
今の座標:Here
到着座標:Here
1時間後のここと同じ場所。設定を終えたので、たったひとりの乗組員はスイッチをオンにする。この乗り物の表面に閃光が走り、バチバチと音を立てる。最初はその音の間隔がはっきりと耳でわかる程度だったが、エンジンが回転数を上げていくうちに、1分間に100万回、静電気が放電しているみたいにやかましくなっていく。そして、その騒がしさを維持したまま音は一定になる。1時間分のエネルギーを貯めたこの乗り物はタイムトラベルのための準備をさらに進める。核融合、ブラックホールの生成、量子解析…
準備を終えたその後は一瞬だ。乗組員の体はとても細かく分解され、未来の同じ場所で再構成されるだろう。
カウントダウンが始まった。
『3、2、1...』
乗組員が何か(痛みやタイムトラベル中のブラックホールの中の様子、現在への感傷的な気持ち)を感じる間もなく、分解と再構築が同時に為される。
その結果、彼が再構築された場所は宇宙だった。このタイムマシンは宇宙船ではないため、中は一瞬で真空となり、彼は呼吸ができなくなって死んでしまった。
「1時間後にここと同じ場所」。彼の設定に間違いはなかった。そしてタイムマシンにも間違いはなかった。ただし、地球は時速10万キロメートルで太陽の周りを公転しているため、彼が設定した『同じ場所』は1時間後には宇宙になっていた。この世界では、同じ場所を設定したからといって地上に戻ってこられるとは限らないということだ。
そもそも、『ここ』とはどこだろうか。
地球の核の中心から測った距離?それとも太陽の中心から?いや銀河の中心か、宇宙の中心?他にも宇宙があったらどうなる?
そして、世界の中心がずっと同じ場所にあるとも限らない。数学の試験でグラフを書き間違えた時みたいに、こすったら消えて、書き換わるものかもしれない。ただ、愛を叫んだからといってそこが世界の中心になるわけではないことは確かだ。え?世界の中心はエアーズロックだって?いや、あんなものただの石ころだ。
結局、この世界の座標系の原点は神のみぞ知るということか。最初にこの世界を作った神様が堅実で保守的だったなら、世界の座標系の原点と軸は変わっていないかもしれない。そして、気まぐれだったなら…
どちらにしても、現在の世界の座標系の原点も知らずに、どうやってタイムマシンを作ることができようか。
君がタイムマシンを夢見ているなら…
世界の中心を探さなければならない。
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