検診から入院へ

 最後の定期検診は8月4日でした。

 

「子宮口は1.5cmほど開いてますね。体重は2800gくらいになっているかな。どんどん歩いてくださいね」


 先生はそう言って頷きます。しかし、まだ入院というほどでもありませんでした。正直なところ、いつ破水などで慌てて病院に駆け込むかわからないのは、そわそわして落ち着かないので、検診の日にそのまま入院したかったのです。

 しかしながらそうは問屋はおろさず。予定日にもう一度診てもらう予約をして、そのまま帰宅しました。


 さて、出産予定日の8月8日。

 早朝5時半に茶色いおしるしがありました。その30分には鮮血っぽい色でまた出てきました。

 おしるしとは、出産のために子宮口が開いていくと、卵膜と子宮口との間にズレが生じます。そのときの出血が粘液に混ざって出てくるものを『おしるし』といいます。これが出てきたらすぐに産婦人科に連絡しなければなりません。


 その日、ちょうど検診があったものの一応産婦人科に電話すると「予約の時間にかかわらず、早めに来てください」と、言われました。

 9時の予約でしたが、長男の食事を済ませたりしていたら、結局病院に着いたのが8時半。そして診察を受けて入院となりました。

 先生いわく、子宮口の開きは変わらないけれど、初産ではないので一気に進みやすいし、すぐに痛みもくるでしょうから、とのこと。


 入院の準備はしていたので、そのまま病室に案内されました。

 前回の出産とは違い、今回は個人病院ということもあり、個室に簡単に入れることになりました。大部屋と比べると一日あたりの料金に差が出ますが、個室のストレスのなさはありがたいものです。


 10時になると別室に案内されました。

 そこで分娩に備えて、下の毛を半分処理します。カミソリでカットするの、結構痛いんですよね……。


 それから病院内を歩くように指示されました。助産師さんが一緒についてくれて、階段をひたすら上り下りして往復します。これが結構汗をかくのです。というか、私が相当な運動不足なのですね。助産師さんと世間話をしながら、30分以上は歩いたでしょうか。


「こうして歩くと、その夜に産気づく人が多いんですよ」


 一緒に階段を歩いてくれた助産師さんが最後にそう言っていました。


 しかし、夜中に産気づいてもやや困る事情がありました。というのも、夫は翌日9日早朝から一泊出張に行かなければならない予定だったのです。長距離運転もするので、少しは寝ないと体ももたない。あまり夜更けに分娩になっても、もしかしたら寝ていて電話に気づかないかも……。


 そんな夫は「前回の出産では32時間かかっているし、なんだか出張中に産まれそうだね」と話し、出張の支度と猫の世話をするために帰宅しました。1歳半の長男は姑に預かってもらいました。


 さて、時間がたつごとに、生理痛に似た痛みがじわじわ押し寄せてきます。けれど困ったことに、これが陣痛なんだか胎動の痛みなんだかよくわからない。長男を出産したのはほんの1年半前なのに、もう陣痛がどんなものか忘れているんです。人間って忘れる生き物だっていいますけれど、特にこの痛みは忘れないと二人目、三人目と子どもを産もうという気にならないよねと、妙なところで納得していました。


 こうして一人でベッドに横になっていたのですが、その夜21時の診察では子宮口は2cmしか開いていませんでした。赤ちゃんが通るためには、やっぱりまだまだかかりそうです。


 しかし、深夜になるにつれ痛みは強くなっていきました。

 そして日付が変わって9日の深夜1時。

 

「これはちょっときついな」


 と、思えるほどの痛みになってきました。

 よく病院に知らせる目安として、陣痛が10分間隔になってからと言います。8日のうちは10分間隔でしたが、この段階では8分ほどの間隔になっていました。

 けれど、強い生理痛に似ているくらいで、何かを握りしめなくてはやり過ごせないほどではないし、声も出ないし、まだ我慢できる。


 しかし、助産師さんから「経産婦はいったん始まると一気に進みやすいので、痛みが強くなってきたらフライングでもいいのですぐ呼んでください」と言われていたので思い切ってナースコールしました。

 様子を見に来た助産師さんは、その場で診るのかと思いきや、私のタオルとペットボトルの水、携帯電話を持って別室に移動するように指示しました。


 案内されたのは、分娩室の隣にあるベッドでした。前回の出産でお世話になった病院でいうところの『陣痛室』のような場所です。

 本音を言うと、このとき「まだだと思うけど、もう移動なんだ」と驚いたのですが、このあとで怒濤の展開になろうとはつゆ知らず。

 

 二度目の出産はこうして始まったのでした。

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