不妊編

理想と現実

 突然ですが、私はバツイチです。現在、二度目の結婚生活を送っています。


 最初の結婚は北海道に住んでいた頃で、相手は四つ年上の男性でした。

 彼の職業はバーテンダー。当時の私は相談薬局勤務の販売員。彼が仕事に行く頃に私が帰宅し、私が出勤を控えた早朝に彼が帰宅するという、見事なすれ違い生活でした。お互いが休みの日って、ほとんどなかった気がします。


 そして、すれ違っていたものは時間だけではなく、『子どもが欲しいか否か』という考えもでした。

 それに気づいたとき、結婚したら自然と子どもをはぐくむものだと思い込んでいた自分の世界の狭さや思い込みに気づき、愕然としたものです。

 彼とは二年弱も同棲していたというのに、子どものことについて話し合ったことがなかったのでした。あぁ、私も青かった。


 私はもともと子どもが大好きとは言えない性格ですし、ちょっと触れたら壊れそうで怖く、どう接していいかわからないタイプでした。赤ちゃん言葉なんてわからないし、幼稚園くらいの子どもが相手でも、大人と同じようにしか話せない性分です。

 それでも、愛する人の子は欲しいと思えたし、自分が人生において何を残せるだろうと考えた結果、自然と子どもを授かりたいと願うようになりました。


 しかし、前夫は自分のバーテンダーという明日の保証もない仕事柄、子どもを育てていく自信が持てないままでした。この点では、彼のほうがきちんと子どもに対して育て上げる責任を考えていたと思います。私は楽観主義というか、「なんとでもなるさ」というタイプですし、実家の妹は保育士だし、両親も協力的なので甘えがあったと思います。

 逆に前夫は父親を亡くしていて、母親と妹との関係もうまくいっていませんでした。なので、頼れるときは誰かに頼るという思考回路がない人でしたし、真剣に私と二人きりで子どもを育てられるか考えた結果だったのでしょう。


 前夫は不器用な性分でしたから、自分の店に打ち込んでいる状況の中、子どもに時間や労力を割くということに納得できなかったようです。彼は店をリニューアルしたり、新しい人脈を持って素晴らしいバーテンダーたちとの交流に志を燃やしていた頃でした。タイミングも悪かったんですねぇ。


 それに、彼はかんしゃく持ちの母親から時折、虐待ともいえる仕打ちを受けて育ってきた人でした。そして、自分が嫌悪しているはずの彼女に似ていることをとても気にしていたのです。同じ事を我が子に繰り返したくないという気持ちから、踏み出せない一面もあったのでした。


 理想と現実のはざまで、ただ年を取っていくだけの日々に気がついたのが遅かったのです。けれど、結婚前に知っていたら……もしかしたらそれでもいいから結婚していたかもしれませんけれど。


 そんな二人が結婚したとき、私の『卵巣皮様嚢腫らんそうひようのうしゅ』という病気が発覚しました。

 結婚してすぐ手術という波瀾万丈スケジュールでしたが、この手術がのちのち離婚に向かっていった原因の一つになるのでした。

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