初めての出産編
おしるし
ドラマなどで「破水した」とか「産気づいた」なんて慌てて病院に駆けつけるシーンがありますが、私の場合はのんびりしたものでした。
出産のときは一週間ほど入院することになるので、あらかじめ予定日の数日前から愛猫たちを連れて夫の実家にお世話になっていました。
出産予定日は2月24日。実はこの日は私の母の誕生日なのです。
「この日に産めるといいなぁ」
そう電話で北海道にいる母に言うと、「う〜ん」とあまり乗り気ではない様子。
「私の占い、いつもあんまりよくないからおすすめしないわ」
たまたまだと思いますし、全世界の同じ日に産まれた方に失礼です。母はどんと構えた人ですが、時々変なところがネガティヴです。
もし24日に間に合わなくても、2月25日だったら「にゃん、にゃんこの日」という猫好きには嬉しい語呂合わせができる! 頼むよ、息子!
そう思いながら、出産まであと一週間という頃、今までかかっていた産科が急遽、先生の体調不良により廃業になりました。
どうも原因は先生の過労のようでしたが、しばらく休業して、婦人科は続けるけれど産科はなくなるとのこと。ベテランの、とても頼もしい先生だったので残念でした。
なにより残念なのは、その病院に決めた理由が『病院食が美味しい』ってこと。試食する機会があったのですが、本当に美味しかった。量は足りなかったけど。
紹介状を握りしめ、転院先の総合病院ではあの味は期待できないなと遠い目になりました。
でも、ものは考えようです。出産のときもしも何かあればどのみち総合病院に転送されていたはずなので、安心は増したんだと考えるようにしました。
一度しか健診を受けていない状況で出産に突入することになるのは不安ではありましたが、北海道から群馬県にぽんと飛び出してきた身です。どこで産んでも知らない人に囲まれているのは今に始まったことじゃないと開き直りました。
さて、私の期待はむなしく、出産予定日当日は何事もなく過ぎていきました。いつ、どうやって出産が始まるのかどぎまぎしていたんですが、いつも通りです。
翌日25日の朝7時、起きてトイレに行くと出血がありました。これは「もうすぐ生まれるよ」というサインの『おしるし』と言われるものだろうということで、病院へ電話しました。
診察に来てくださいというので、一応入院の準備をして姑と病院へ。内診で子宮口が3cm開いていると言われてそのまま入院することになりました。
私が通されたのは、産婦人科病棟の一室で、いくつかのベッドがあり、カーテンで仕切られた部屋でした。そこは『陣痛室』と呼ばれる部屋で、陣痛に耐え、子宮口(赤ちゃんの入り口)が広がるのを待つためのスペースです。
それが朝の9時。そのときの私はこのままいけば夜には産まれるのかなぁと、気楽に構えていました。母の誕生日には間に合わなかったけど、にゃんこの日になりそうだとうきうきしていたものです。
まさかその部屋で29時間も過ごすことになるとは夢にも思っていなかったのでした。
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