授乳
お母さんが赤ちゃんに授乳している姿というのは、なんとも神々しく美しいものです。
ただし、おっぱいがしゃあしゃあ出る人にとっては……と、僻みっぽくなってしまうのは、私が隠し味程度しか母乳の出ない人だったからでしょうか。
おっぱいのためのマッサージというものがありまして、数本の指で乳首周辺を掴み、ぐぐっと引っ張ったり、手の平を当てて乳房をほぐしたりします。これが結構な痛みを伴います。男性の方におきかえれば、自分のアレを容赦なく指三本で引っ張られているという感覚でしょうか。
産婦人科で指導していた看護師さんは、「私のマッサージって痛いから、泣き出しちゃう人もいるのよね」と言って容赦なく私の胸を引っ張っておりました。うん、これは泣く人いるよね、と納得。
このマッサージの目的は、乳首の周りを柔らかくし、赤ちゃんがくわえやすい乳首にしてあげること。先端だけくわえさせると、切れたりして痛みなどのトラブルのもとになるのです。
母乳というものは、赤ちゃんが吸い付くことで出てくるようになるんだそうです。最初に親子が二人三脚で作り上げていくものが母乳だなんて、妊娠する前は知りませんでした。黙ってても産めばぶしゅっと出るものかと思っていたんです。
それから母親が食べるもので母乳の味が変わるんだそうです。しばらく出していない母乳も美味しくない。
小説を書くようになってから、どんな経験でもいつか役立つかもしれないという考えが芽生え、もともと好奇心が強いのにそれに拍車をかけています。
そんな私、自分の母乳の味をみてみたことがあります。しかし、はっきり言って、私のお乳は不味かった。なんというか、塩っ辛いというか……。そりゃ、息子も飲まないわと納得したのでした。
栄養バランスのいい食事をとって毎日きちんと出していたら、もっと美味しいのかもしれないけれど、断乳を始めて数日経過していたタイミングで「出なくなる前に味を知っておこう」と思い立ったせいでしょうか。
産まれて最初の母乳は特に大切で、赤ちゃんに必要なものがたくさん。色も濃いらしい。なので、どんなに少なくてもいいから、なるべくあげるようにと病院で推奨されました。
でも、出ないものは出ない、という人もいる。気にするあまり、鬱みたいになる人もいるんだとか。
もし、母乳が出なくて自分の胸が小さくても、「これって貧乳だから?」と気にすることはないと思います。実際、貧乳の妹は母乳育児真っ最中ですし、同じく貧乳の同僚は出過ぎて赤ちゃんの口から「あばばば」と母乳が溢れていたという話です。
そんなわけで、私が出なかったのは体質なんだと諦めました。最初の頃は僅かばかりでも母乳をあげて、残りは粉ミルクで育てました。
産後に妊娠性湿疹、くしゃみ、鼻水といったトラブルが続いていたのに加え、我慢できないほどの頭痛に襲われることが多くなっていました。
医薬品を服用すると母乳をあげられなくなりますし、時間をおいて一度搾乳して捨ててから、授乳するとはいえ、恐る恐るになりました。
生後三ヶ月の頃、びくびく不安を抱えながら微量をあげるよりも、申し訳ないけれどやめてしまおうと決意したのです。そこで完全に粉ミルクに移しました。
息子は、私のおっぱいよりも哺乳瓶のほうが吸いやすかったらしく、彼にとっても大歓迎だったようですけれど。そんなわけで、彼はあっさり乳離れできたのでした。
それにしても哺乳瓶で粉ミルクをあげるとき、いちいち哺乳瓶を消毒するって知りませんでした。
哺乳瓶、吸い口にあたる乳首と呼ばれるもの、キャップを毎回使う前に消毒するんです。赤ちゃんなんて最初は4時間もすればお腹がすくのに、毎度です。
消毒液につける方法もありますが、文明の利器である電子レンジで消毒できると知って驚きました。水をちょっと入れて、レンジでチン。これだけ。
粉ミルクは作ってしまうと長時間作り置きはできません。お湯で溶いて作ったら、冷水で人肌まで冷まして赤ちゃんへ。
哺乳瓶はガラス製とプラスチック製があります。
早く冷ましたい人はガラス製がいいかな。ガラス製は割れるリスクはあるけれど傷はつきにくい。でも飲んでいるうちにもどんどん冷めていくので、飲むのが遅い赤ちゃんには冷めにくいプラスチック製がいいかも。
ガラス製はちょっと重いので、持ち運ぶ際もプラスチック製がおすすめです。ただ、プラスチック製はガラス製に比べると劣化しやすい難点があります。
今でも思い出します。産まれた翌日は一回の授乳量がたったの20ccだったんです。それでお腹いっぱいになるんだと驚きました。その後、どんどん増えていき、最終的には一度に200cc。そして今ではご飯をもりもり。
最初の一年の成長は目を見張るものがあります。けれど、今こうして思い出しながら書いているから「そういえば」と思いますが、あまりに必死に駆け抜けてきたのでうっかり記憶の彼方に押しやっていました。よく高齢の方が「もう子育てなんて忘れちゃった」なんて笑いますけれど、つまりはそういうものなのかもしれません。
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