分娩室にて
陣痛室ではいきみを逃がさなければなりませんでしたが、分娩室に行くと今度は逆に思いっきりいきまなければなりません。分娩台の上で脚を観音開きにしていきみます。
陣痛室での『いきみを逃がす』というのは、痛みに力を入れたくなるのを受け流す感覚です。ところがいざ『いきむ』となると、これまた体力が削られるのです。
いきむたびに、全身の毛穴がぶわっと開くようでした。3ヶ月溜まった便秘を一気に押しだそうと踏ん張っている感覚にも似ていました。しかもその波が問答無用で寄せては返すのです。
いきむときはちょっと下の方、つまりへその辺りを見て、下に押し出す感じをイメージします。
分娩室に最初は夫も入って来ましたが、先日からの夜勤の疲れで途中でリタイアした模様。気がつけば隣にいやしねぇ!
おまけに病院側もその日は私を含めて5件ほどの出産があり、てんやわんやで人手不足でした。
分娩室で過ごすこと、3時間。
最後は体力がなくなり、水分をとる気力もなくなりました。
そこで陣痛も弱くなってきたというので、陣痛促進剤を点滴しました。分娩台の上で脚をご開帳しながら同意書にサインしました。今のご時世、なんにでも同意書が必要なのは知っていますが、もっと前に「もし必要なときは」とサインしておくべきだったんじゃないかと、自分の間抜けな格好を見ながら思ったものです。
促進剤を打つと、踏ん張る力はないのに、容赦なく陣痛の波がやってきます。ベテラン助産師さんが「横を向いてごらん」と言うのでやってみたら、すぐににゅうっと何かが動く感触が! さすがベテラン!
「な、なんか出た!」
そう思ってからのいきみがすごく辛く、「じゃあ、取り上げる準備しますね」なんて呑気に言ってる助産師さんに『早くぅ!』と心の中で悲鳴をあげておりました。
その助産師さん、準備が終わるまで、なんと出てくるものを押さえてるじゃありませんか。せっかく出てるのに何するんじゃと思いましたが、よくわからないけど、まぁ、色々都合があるんでしょう。
その段階になるともう最後ですから、別室で休んでいた夫もまた分娩室に戻されました。でも、彼はもともと「俺は立ち会わない」と言っていたのです。
分娩台の上から「結局、立ち会ってんじゃん」と言うと、「しょ、しょうがないだろ!」と一言。まぁ、あとには引けない状況ですよね。
そうしているうちに私は足などにカバーをまかれ、すそを切って血みどろ。直視できない夫。見なければ立ち会いの意味がないと心の中でつっこむ妻。
やがて、最後のいきみから、「力を抜いて!」の号令。腕をツタンカーメンのようにクロスさせられ、「深呼吸!」を命じられました。
その瞬間、生ぬるいぐちょぐちょした感触があり、そこに助産師さんが手をつっこんで、更にぐにょぐにょと何かをしています。『うわぁ、気持ち悪い、早くして』と思った途端、薄紫色をした塊がにょっと取り出されました。それが我が子でした。
赤ちゃんって、仰向けの母親ときちんと顔を合わせるように出てくるメカニズムなんだそうです。
生まれてすぐ、思わず隣の夫を見たのですが、彼が顔を真っ赤にして泣いているじゃありませんか。一方のドライな妻はそんな彼に驚きました。
いくら徹夜で眠いとはいえ、陣痛室で苦しむ妻の隣で爆睡していたり、腰をさするようお願いしても携帯電話片手にやる気のない手つきだったのは水に流してやろうと思いました。……流しきれてないからエッセイに書いたけど。
こうして、私の初めての出産は無事終わったのです。いやぁ、長かった。初産でしたし、高齢出産だし、体重が増えすぎていたし……と、今思えばお産が長引く原因がたくさんあったのは、反省しています。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます