第14話:ナンパ禁止だろ!?
森田に海水の中に追い立てられた設楽達ご一行は、ブーブー言っていた割に、いざ水をかけられたらむきになって森田に水を掛け返し、思いがけず楽しい水遊びに夢中になってしまった。
「あっ!森田!アレ見て!」
「え!?」
大宮が指さした先でビーチパラソルの下、リクライニングチェアに腰を下ろした大竹が、3人組の女性に囲まれて何やらワイワイやっている姿が見えた。
「アレはナンパじゃねーのかよ!!」
「……あちゃー」
その、どう見ても逆ナン中です、という光景に、森田が困ったように天を仰いだ。
「大竹先生、前回も逆ナンされてたよな……。あの人、何で日本にいるときよりこっちにいるときの方がもてるんだよ……」
その台詞に、当然設楽の目が吊り上がった。
「あれ?設楽?顔が怖いよ……?」
「……許せねぇ……」
「し……設楽?」
大宮や森田の引き留める声も耳に入らぬように、設楽はザバザバと水から上がると大竹に向かってずんずんと進んでいく。
「……先生。何やってんの……?」
「設楽?」
「……ナンパは禁止じゃなかったの……?」
設楽の目が据わっている。
やばい。俺のせいじゃないはずだけど、俺やらかした!?
という気持ちはおくびにも出さずに、大竹は至って冷静な顔で普通のこと様に返事を返す。
「ちげーよ。ビーチボール飛んできたから取ってやっただけだぞ?ねぇ、大場先生?」
「そうですね。ただその後ちょっと美味しそうなお店知ってるから、一緒にランチでもどうですかって誘われてましたけどね」
大場がしれっと言ってのけると、さすがの大竹も慌てて反論した。
「やめて下さい、大場先生。生徒の前で」
「あんたホントに外人さんにもてるよな。将来の嫁さんは金髪ですか?」
「大場先生!発言がオヤジ臭いですよ!」
「……先生……」
地の底から発せられたような声で設楽が大竹に詰め寄ったとき。
『きゃー!この子も可愛い!』
『え?本当に先生と生徒なんだ?』
『どう?君も一緒にランチ行かない?』
女達がきゃあきゃあと喜びながら、設楽の濡れた胸元に指など這わせやがった。
『ちょ、何すんだよ!』
『やだ!可愛い!!女の子に触られ馴れてないの?』
『日本の男ってシャイだよね!』
設楽の怒りをどうとったのか、女達は勝手なことを喚き散らしながら、設楽が言うところの「脂肪の塊」をやたらとアピールしてくる。
「先生、ナンパ禁止なんだろ!さっさと追い払えよ!ほら、先生行こうぜ!」
設楽が大竹の腕を取ってズンズン海の方に連れて行こうとすると、女達もキャーキャー言いながら一緒についてくる。その様子に、海の中で様子を窺っていた大宮達が目を丸くした。
「おい、設楽。すごいことになってるな……!」
大宮達は大竹と一緒に堂々と水着の女性と喋っている……ように見える設楽を羨ましそうに見つめ、近くに寄ってきた。
『あら、何?あなた達もお友達?』
女の1人が値踏みするように大宮を見つめ、小さくクスっと笑った。
『それじゃ、一緒に遊ばない?』
『良いんですか!?』
大宮と里田が興奮したように鼻息を荒くすると、佐藤は少し躊躇うように大竹の顔色を窺った。
『おい、悪いが今俺達修学旅行中で、勤務中なんだ。ナンパは禁止なんで、申し訳ないがそろそろ諦めてくれないか?』
『あら残念!』
『やだ、こっちのセクシーなマッチョは先生?生徒?』
女達は森田の盛り上がった胸板に手を伸ばして、コチョコチョと撫でている。おいおい、それは明らかにやり過ぎだろう……。
『あ~、俺も一応教師です』
困ったようにさりげなく女性の手を外しながら、森田がこちらも仕事中ですとアピールする。
『ステキじゃない!ねぇ、フリータイムはないの?』
『無いから』
『あん、そんなに怒らなくても良いじゃない』
この様子は当然他の生徒達も刺激してしまったようで。
「あ~!先生がナンパしてんだから、俺らがナンパしても良いよな!?」
「ナンパじゃねぇから!つうかこら嶋村!おい谷田部もやめろって言ってんだろ!」
「だって大竹達ばっかずるいじゃん!!」
「違うから!!あ~、もう!何でこうなる!?」
その後はもう大変な騒ぎだった。生徒は教師の些細な失敗を決して見逃さず、それを囃し立てたいものだが、普段自分達を良いようにやりこめている大竹の失態に、生徒達は大喜びで羽目を外しまくった。
「大竹先生、覚えててくださいよ!」
騒ぎ出した生徒の後をド突き回しながら、大場と森田に睨まれる。大竹にしては珍しい状況だ。
「……俺か!?俺が悪いのか!?つうかこら!お前らもう海の中で競泳でもしてこい!!」
『お姉さん達、そんな堅物じゃなくて、俺らにしない?』
「嶋村ぁ!!」
そんなわけで、いつも問題が起こりがちなビーチリゾートではあるが、今年はもうてんやわんやだ。教師陣が3人集まって、学校への報告をどうしようとこっそり相談したりしたのも、当然生徒達には内緒だったりするのだ。
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