第8章:仲間の章②・その4

強いという事実は、人を認めさせる。

それまでの素行などは、その事実の前にはちょっとしたおまけの話にしかならないだろう。

「あ、出口見えてきましたよ! 意外と短かったですねー!」

あっけらかんとした笑顔の勇者。

その後ろをついていくように歩く兵士や傭兵たちは、己の認識を改めて、ただただ苦笑いを浮かべていた。

目の前にいる女性は勇者だと、この短時間で全員が確信できたのだから、隣に立つ賢者としては鼻高々といった様子。

その仲間となった若い騎士は、心強さとはまた別に、己の小ささや世界の広さに、少しだけ打ちひしがれているようだった。

「賢者さま! 私は少し先に行って危険がないか見てこようと思います! いいですか?」

周囲の魔物との戦闘に慣れて余裕があるのか、勇者から提案がなされた。

賢者は少し考えたのち、了承する。強敵を見かけたら、戦闘を行わずに帰ってくることを条件に。


賢者と騎士が立ち止まったのを見て、後ろにいた兵士たちも、一度腰を下ろし始める。

次の作戦目標である魔物の補給部隊を相手取るために、少しでも休憩を取る考えだった。

「そういえば先ほど話してもらった、城塞都市での戦いの話なのですが……」

「あぁ、敵のボスについて再確認?」

作戦開始前に、敵の情報を共有していた勇者一行。そのことについて、さらに詳しく話をしたいのだろうと察して、遊学は攻略本を取り出す。

「あ、いえ、違います。それとは別で、ユキミチが僧侶ではなく賢者だという話をした時、ゆきさんが言っていらした『僧侶がこの先で命を落とす』ということについてですが……」

「あー……それ、ね」

今回の作戦の中で、遊学が僧侶だと伝わっている点が、勇者と賢者二人は気になっていた。

遊学は賢者であると説明をしていた際、ゆきは口を滑らせるよう、僧侶は死ぬ運命にあると教えてしまっていた。

そうなれば、この場に僧侶はいなくとも、僧侶として扱われる遊学が、死の運命にあるのではないか? という疑念に考えが至る。

賢者も騎士も、今この場で同じ考えを持っていた。

「どうなさるおつもりですか?」

どうと言われてもなぁ、と頭をかく賢者。

昔遊んでいたゲームの中では、僧侶が画面上にいなくとも、セリフだけが表示され、物語は進行していた。

重要なのはセリフが流れるという点だと推理している賢者。うまく行けば敵の攻撃は何処か関係のないところへ向かい、何も傷つかないで進行するだろうと都合よく考えていた。

「都合よく行かなかった時は……?」

「その時は……困るなぁ。ローズさん、かわってくれません?」

茶化すよう笑いながら言葉を吐く賢者。わかりやすく、ため息をつく若い騎士。

「ゆきさんは全力で前線を戦い抜くでしょう。なので私は、全力で後ろのあなたを守ります。おそらく、そのために仲間になったのだと、今思いました」

「……じゃあ僕は、全力で守られるとしようかなぁ。よろしくお願いします」

騎士は新たな主君と手を結び、己の矜恃に誓った。仲間として、自らの役割を全うすることを。

賢者は伝えようとしていたことを、この場は収めることにした。

もし自分が死んでしまった時、賢者の書と、魔王討伐のために必要な攻略メモを託す気持ちを。

「さて、あんまりのんびりしてると、敵の補給部隊が通り過ぎてしまいます。そろそろ腰をあげましょう……」

そうローズが皆に言葉をかけた時。

「賢者さま! 戻りましたー! さっき敵の補給部隊が散歩してたので、倒しておきましたよ! 作戦第一段階はクリアです!」

勇者が兵士たちの仕事を奪い去って、帰ってきた。

「ゆき、倒した魔物の種類と数を教えて。あと、攻撃を食らった回数もね。今度勝手なことしたら怒るよ」

賢者は勇者に勝手な行動を取らせたことを少し後悔しつつ、すぐにメモを取り始める。


「作戦の第一段階は、抜け道通ることだったんだけどな……」

「よせ、今は作戦が成功することを喜ぼう……虚しくなる」

後ろで腰を下ろしていた兵士たちは、ただただ遠くの何かを、世界の広さを、眺めていた。



---第8章・その4 Fin---

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