TOPIC①:アイテムを入手しよう!

もうしばらく歩けば目的地。

二人の男女が草原を歩きながら、同じようにそう考えている。

見れば、鎧を着込んだ女性の方は息を乱し、肌には幾つかの生傷も負っていた。

「もう少しで避難所に着くから、頑張って!」

「は、はい……ありがとうござい、ます……」

足取りも覚束ない勇者を軽く支えながら、賢者はゆっくりと歩を進める。

が、しかし。

「うっ……」

スライムがあらわれた。

「賢者様は、後ろに……」

息も絶え絶えにショートソードを構え、前に出る健気な勇者。

戦いは任せることしかできない賢者は、拳を握りしめ後ろに下がる。

「あと3発攻撃を受けると終わりだ……うまくやってくれよ……」

祈るように状況を見つめ、メモを取り始める遊学。戦闘を行って得た記録は、すでに幾ページにも重なっている。

「せいっ……やぁあああ!」

この戦いに勝てたとしてもそれ以上の戦闘は限界。その切迫感のせいか、緊張、気迫、焦燥、激情的な気持ちが、ゆきの気力を高める。

素人目に見てもわかるその一太刀は、瞬く間に戦いの幕を降ろさせうる……

「これは……いいぞ、ゆき!」

会心の一撃だった。


「や、やりました、けんじゃさ……まぁぁ」

よろめく勇者を抱えるために、賢者はすぐに駆け寄り、肩を貸す。

「すごかったぞゆき! さ、あとちょっと頑張ろうな……!」

「はいぃ……」

女勇者は疲れ果てながらも、自身が認められたこの一時に嬉しそうな表情を見せる。

そんな思いで、二人は止めていた足をゆっくり動かそうとした。

その、一歩後。

「げっ……」

「くぅっ……賢者様は、後ろに……」

スライムがあらわれた。


………………


…………


……


「着いたのか……」

「や、やったぁ……」

目的地である、村人の避難所。

周囲を簡単な柵で囲み、幾つかのテントが張り出されているそこに、倒れこむよう踏み入れる勇者一行。

近くに人の気配は見えず、物静かな空間が広がっていた。

「ちょっと待っててくれ、確かここには薬草があったはずなんだ。取ってくるよ」

言うが早いか、遊学はゆきを近くの柵にもたれ掛けさせ、足早に近くのテントへと向かっていった。

「あ、ありがとうございますぅ……」

勇者の力ない声が小さく流れて、完全な静寂が訪れた。

しかし、程なくして。

「なんだ貴様はっ!」

「泥棒だああああぁぁぁ!」

人の怒声が響き渡り、場の熱量は一気に高まった。

「な、何でだ! 勇者パーティはタンスの中を漁っても問題ないはずなのに!」

大慌てでテントから飛び出した遊学は、攻略本を片手にゆきの元へと走り寄る。

「ど、どろぼう……?」

ぼーっとしていた頭を無理やり働かせ、勇者は眉をひそめながら賢者を見つめる。

「何をしたんですか、賢者様……?」

「いや、あのテントの中にタンスがあるんだが、そこに入ってる薬草を取ろうとしたら、いきなり泥棒だって言われて……」

当たり前のように非常識を語る男。

「それは……えっと……泥棒、ですよね?」

理解が追いつかないものの、常識を語る女。

二人はお互いを不思議そうな顔で見つめる。

「考えてみれば確かに、泥棒だな……」

「考えなくても泥棒です賢者様! 何してるんですか!?」

しでかしたことの重大さに、幾つものテンポを遅らせて冷や汗をながす二人。

「いたぞ! こっちだ!」

「囲め、囲め!」

瞬く間に村人たちの包囲網が出来上がり、現行犯二人はそこに睨みつけられた。


ジリジリとにらみ合いが続いていた中、包囲網から一人の老人が前にあらわれる。

頭部に髪は見当たらず、立派に蓄えた白い髭が揺れていた。

それを見て、一人の若い男が村長と呼ぶ。

「ふむ、お前さんがたも、どこからか逃げてきたんか?」

「すみません、道中、何匹ものスライムに襲われてしまったもので……薬草が、必要だったんです……」

遊学は話を聞いてくれそうな老人を前にして、ここぞとばかりに事情を説明する。

できる限り申し訳なさそうに。自分たちの無害さを極力醸し出して。

営業先に頭を下げるよう。

「なんと、魔除けの香を焚かずにここまで来たとは、随分と無茶をなさる」

周りにいた村人たちも、必死に頭を下げるスーツ姿の営業マンを見て、剥き出しの戦意を収め始める。

「皆のもの、この方々に薬草を分けてあげなさい」

「そんな、貴重な薬草を……」

どよめく村人たち。

髭を撫でながら、村人に向き直る村長。

「我々が持っておっても上手くは使えん。それより、この人たちに使ってもらって、しばらくこの周辺の魔物を退治してもらうといい」

「おぉ、なるほど、魔除けの香が節約できるならそれがいい」

村長の申し出は当人たちを無視して進められ、村人たちも勝手に喜び出していた。

「薬草が手に入るなら、ひとまずはそれでもいいか……?」

賢者は傷ついた勇者の隣に寄って、耳打ちをする。

「うぅ、普通に交渉すれば、もうちょっと穏便な条件で済んだんじゃないでしょうか……」

肩を落とす勇者は、恨めしそうに賢者をにらむ。

それに対して空を仰ぎ、攻略本を掲げて、一つ呟く。

「いや、こうなる未来だったのだ、勇者よ……!」

胡散臭い占い師に格下げされかねない発言を残して、賢者は薬草を入手した。



---TOPIC① Fin---

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