第8章:仲間の章②・その2

厳格が支配する空間。

貴族の装丁は煌びやかに、その謁見を一つの絵にする。

幾人かの騎士が間を彩り、絢爛な玉座に、初老の男が目の前の旅人を見定める。

こうべを垂れて、ただひたすらに礼を尽くす一組の男女。

「まさか、本当に勇者が現れるとは……アポロニア教はこのことを既に知っているのか?」

「いえ、実際に真偽を見極める必要があるでしょうから、こちらからはまだ事の次第を伝えてはおりません」

国王『ロドムス・アーヴァンソー』とその側近『ピピルス』は、耳打ちに近い距離で、確認を取り合う。

なるほど、と言葉を締めたところで、改めて国王は目の前の人物に言葉をかけた。

「頭を上げるといい。今日はよく来てくれた。ムートン村を魔物の手から解放し、また我が家臣も世話になったとか。礼を言おう。名前はー……」

「ゆきと申します!」

おぉ、そうだった、とあまり関心なさそうに漏らすロドムス王は話を続ける。

「話は聞いている。アポロニア教が言う、託宣の勇者と同じ名を持つ旅人よ。しかし、それだけではわしも認められはしない。申し訳無いがな」

申し訳無さを微塵も感じさせずに、一瞥だけして続ける玉座の男。

勇者ゆきは消沈したのか、伏し目がちにそれを聞き、隣の賢者は事の顛末を平然と受け止めていた。

「今この国は魔王エルオン率いる魔王軍と戦をしている。いくつかの都市も奇襲を受け占領されてしまっているのが現状だ」

ため息混じりに愚痴をこぼすよう、遠くを見て話す国王。

「ついには先刻、魔族領との境を守っていた城塞都市『バロニア』が陥落した。これは何としても奪還せねばならん。明日にはその作戦も控えている」

ここで側近の男が気づいたように表情を変え、王の目を見やる。

それを知らぬふりして、好きように笑いながら王は勇者に言い放つ。

「ゆき……いや、勇者を名乗るゆきよ、この作戦に参列し、見事成功させてみよ! その暁には、我が王国はそなたに惜しみない協力を約束し、魔王討伐の任も託そう。わしもアポロニア教に踊らされてやるとするわ! ハハッ!」

ロドムス王はしたり顔で返事を待つ。

その次第、頭を抱えるピピルスを眺める賢者は、厄介な上司を持つ彼に、ただ同情の念を抱いていた。

「城塞都市奪還! 必ずや吉報をお届けして見せましゅ! はぅっ、あっ、み、みせまそあわわわわ……」

勇者は緊張のあまり、セリフを噛んだ。

「失礼いたしました、国王陛下、我々はなにぶん田舎の出なもので、このような誉れは未体験でありまして……言葉ではなく、実力を持って応えさせていただき、それをお詫びとさせていただければ」

見かねた賢者は新人勇者を落ち着かせるよう肩に手を置き、取引先の機嫌を損ねないよう務める。

「随分と達者なことを言うものだな……まぁいい、明日までここの客間を使うと良い。準備が出来次第、勇者とその仲間の僧侶二名は城塞都市攻略隊と合流、作戦の説明を受けよ」

「そこまでの案内は昨日までと同様、ローズ卿を付けましょう。さぁ、お二人に神のご加護があらんことを……下がって良いですよ」

緊張も極まっていた勇者は、カチカチになりながらも礼を済ませ、謁見の間から去っていく。

それを追うように、賢者も踵を返す。

その表情は何かを考えるよう、苦い顔をしていた。

「勇者と僧侶の二名か……」

呟きながら、小さな疑念を勘繰る。

未来を知るが故に、賢者は新たな悩みを抱えることになった。


謁見の間が作る厳格な空気から解放された田舎者は、扉が締められると同時にため息を吐いた。

すぐ側の衛兵の存在に気付いて、照れ笑いをする勇者と、咳払いしてごまかす賢者。

そんな両名に、労うよう言葉をかけてきたのは、優しげな青年のローズだった。

謁見の顛末を伝えると、ローズは目を丸くして、しかし嬉しそうに手を差し伸べる。

「では、ここからは私も勇者様の仲間ということでしょうか。とても光栄です! よろしくお願いしますね!」

その手を取り、笑顔で返事をする勇者と賢者。

城内を歩きながら、城塞都市攻略隊について説明を受け、二人は次の戦いの準備を進める。



---第8章・その2 Fin---

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