TOPIC③:アイテムを買おう!

魔物の手によってところどころが破損していた村の施設群は、戻ってきた村人たちの手によって修復が始まっていた。

それらの作業に勤しむ人々の目に、避難所にいた頃のような悲痛な色は見えず、むしろ生き生きとしている。

行き交う人々も口々に安堵の会話を交わし合い、そこには確かに、勇者によってもたらせた安寧、平和があった。

「うー、早く宿に泊まりたいです賢者さま……」

「うん、僕も横になりたい……」

村を奪還した英雄二人、村長との話を終えて、その辺をぶらつきながら、率直な思いを語り合う。そのままの歩みで、周囲から聴こえる大工の唄を耳に入れながら、宿を目指した。

しかしその道すがら、人だかりを見つけて立ち止まる。

「はいはーい、押さないでくださいニャー! そこのお客さん、あんまりベタベタ触ると売り物にならなくなるからやめるニャ!」

近づいて、それが行商だとわかる。

外からの貴重な補給物資は、この村にとって特に有用なのだと、場の盛況ぶりからも見て取れた。

「そういえば、アイテムを買うのは行商人からだったっけ」

すぐさま必要なものが何かあったかと、攻略本を開く遊学。

しかし、重要なことに気づいて顔を上げた。

「お金、拾ってないぞ……」

魔物を何体も倒してきた勇者一行。

本来のゲームシステムならば、経験値とともにゴールドが懐に入るはずだと、賢者は衣服のポケットを探り始める。

現実は妄想を軽くあしらい、虚しさをそこに置いていく。

「ゆき、魔物を倒した時に、ゴールド拾ってない?」

「ゴールド、ですか? 魔物がそんなもの持ってないと思うんですが……」

淡い希望も一蹴されて、疑問が残る。

魔物討伐の報酬は一体どうやって手に入れるのだろうか。と。

そうこうしているうち、行商人の周りにあった客の影は落ち着きを見せる。

「お? お? おぉ〜! そこに見えるニャお二人は、ムートン村の英雄ですニャ!?」

よく響く明るい女の声。

それは人影から姿を現して、勇者一行に近づく。

「おおおぉぉぉ!!! ニッキーちゃんだ!!!」

賢者はその影を捉えて歓喜の声で叫ぶ。

アジアンテイストなデザインの身軽な衣服に、短髪赤毛がサラリと揺れる。

特に目につくのは猫のような尻尾、頭から生えた猫耳。顔も普通の人とは違い、猫と人間を混ぜたような『獣人』とでも表せばしっくりくる見た目。

語尾にニャが付く言葉遣いがやけに似合う、小柄な女の子の商人。

「んん? いかにも私がニッキーニャけど、私も結構有名になってきたのかニャ〜?」

突然自分の名前を叫ばれて、駆け寄ったところで少女の勢いは止まる。

「賢者さま、お知り合いですか?」

勇者は初対面の少女を見ながら、問いかける。

賢者自身も会うのは初めてだと言いながら、目の前の生猫耳、生猫尻尾を嬉しそうに眺める。

ニッキーはエクストラストーリー1作目に登場して以来、以後の作品にも姿を変えて登場するほどの人気キャラクターだと、得意げに語る遊学。

ゆきはキョトンとした様子で、興奮するスーツの男の説明を頑張って理解しようとしていた。

「勇者さんたち、この辺の魔物を狩ってた

ニャ? この辺きた時に、たくさん魔物の残骸が落ちてたから、ずいぶんと儲かったのニャ」

「え? 残骸……?」

不意に語られた重要な情報に、賢者は思わずして猫耳から目を引き剥がされる。

「スライムの粘液体やゴブリンの骨とか爪はお金に変えられるの、知らなかったのかニャ? あまりにも勿体無いから、優しい私は忠告してあげるのニャ〜」

「な、ナンテコッタイ……」

大きな赤字を突きつけられたスーツの社会人ゲーマーは、クラクラする頭を抱えながら、その場にへたれこんだ。

勇者は慌ててそれを支えてやる。

「あー、こっちもだいぶ儲かったからニャ、全額分とはいかないけど、なんか欲しいものがあったら持ってくといいニャ」

「ニッキーちゃん! 大好き!!」

賢者は優しい言葉にすぐさま元気を取り戻して飛び上がり、熱い友愛をもって商人の手を握りしめた。

「う、うニャ。 だから、これからもウチを宜しくしてくれると助かるのニャ」

たじろぐ商人はそっと手を解き、自分の出店へと二人を案内する。


「色々あるんですね……あ、この盾、使いやすそう」

勇者は小さな陳列台に並ぶ、品揃えの良い商品群に感心する。

「ふむふむ、盾ぐらいなら持って行ってくれてもいいニャ。ついでに兜もいかがかニャ? これなら私も満足しちゃうイッピンニャ!」

ニッキーは気前良く商品を押し付ける。

さすがに不思議に思った賢者は、盾と兜を観察してから、攻略本を開く。

「ふむふむ、皮の盾に皮の兜、合計50ゴールドか……」

呟き。それに呼応して、ニャ! という驚きの声。

「お客さん、なかなかの目利きですニャ……」

今まで討伐した魔物を考えると、大体400ゴールドは稼いでいたはずと、賢者は早速に計算の手を走らせる。

稼ぎの半額程度の会計で済むように、必要な消耗品を多めに計上し、それを提示する。

「ぐぬぬニャ。お客さんなかなかのやり手ニャ。これから先が怖くなるニャ……」

「今後とも宜しくお願いします、ニッキーさん」

営業スマイルで取り引きを終えるスーツマン。

その後ろで、思わずして手に入った新しい装備に、目を輝かせている勇者。


やり手のこの二人には先があると、今回の商いで確信できた行商人ニッキー。買った装備は身につけなければ意味がないニャ。そう言い残して立ち去るのだった。



---TOPIC③ Fin---

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