魔王エルオン

鈍い鉛色の空は暗雲を含み、瘴気に不快な生温さを加え、地で愚鈍な亡者が呪いを伝播する。

魔王城にそれは居た。

名は『エルオン』

銀の髪に尖った耳。褐色の肌と赤い瞳。

端整な顔立ちに細身の体は一見力があるようには思えない。

しかし、彼は魔王だった。

溢れる魔力に己を主張させる。

見ればそれは震え慄く。

嗅げばそれは気を狂わせる。

触れればそれは生命を吸われる。


彼の魔王の名は『エルオン』


魔族は王に全てを捧げる。

王は魔族に栄華を与える。

彼に課せられた使命は、人類の支配だった。

故に、勇者を視ていた。

神なるものの託宣にある魔王を打つ存在。

その動向は知っておくべきこと。

勇者を始末する事が命題。魔王の宿命。

そういった流れが、今、魔王とその近しい魔族たちにはあった。


「報告します、勇者及び仲間の僧侶と王国騎士を確認。現在城塞都市奪還を目論み行動中とのこと」

魔王を筆頭に、その玉座の間には、四天王なる存在が三名と側近が一人、仰々しく立ち並んでいた。

「勇者、僧侶、騎士、か。ふむ」

魔王は報告を受けて考え込む。すぐ近くには報告に合わせて置かれた水晶玉。それには旅をする勇者一行が映し出されていた。

「この男の出で立ち、どう見ても僧侶のそれとは違うな。勇者と騎士と、なんだ? こいつが今回のプレイヤーか? なぜ僧侶がいない。何が起きている」

魔王は眉をひそめていた。

周囲にいた魔族たちは、魔王の言葉に対し、一様に疑問の表情を呈する。

「そんなことより魔王様、この勇者は相当の手練れと聞きます。少しばかり警戒を強めても良いのでは……」

四天王の一人が、事前に知り得ていた勇者の実力についての情報を元に進言する。

他のものは出し抜かれたかと言わんばかりに、それを睨む。

が、しかし

「我を倒すとのたまうのだ、勇者が強いのは当たり前だろうよ。しようもない話で思考を遮ってくれるな」

今は言葉を挟むなと言わんばかりに、適当に会話を突っぱねる魔王。

言われた四天王の一人は困惑して、仕方なく口をつぐんだ。

「ミリアム、少し頼まれろ」

ハッとすぐ一歩前に出たのは、魔王エルオンの側近『ミリアム』と呼ばれた悪魔嬢。

格好は紳士服であるが、女性。背にコウモリのような羽根を生やし、尾も生えていた。

「城塞都市の戦いでは、この僧侶だと報告を受けた男が命を落とすはずだ。それをここに持ち運べ。死体で構わん。」

なんらかの事情を把握している風の魔王は、側近に命令だけを伝え、その場から姿を消す。

居合わせていた四天王たちとやらは蚊帳の外で、それぞれが頭を捻っていた。

「ミリアムどの……エルオン様は一体何をお考えなのだ……?」

「まるで勇者のことなど御構い無しに、僧侶だのを気にするとは……」

口々に疑問が溢れ始める。

その言葉たちに、ミリアムは一つだけ呟く。

「まず最初にヒーラーを倒すのがセオリーでしょ。それ、一番言われてるから」

抑揚もなく言い捨てて、彼女も早々にその場を去っていった。

四天王たちはその言葉で、さらに混乱するのであった。



---魔王エルオン Fin---

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

大丈夫。賢者の攻略本だよ。 だっきー @dackkey

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ