集中と分権

 切尾が平成不況を乗り越えられたのは、前の西ノ方サマひとりによるものではなかった。前の老松長者と前の婿サマの力添えがあればこそであった。

 前の老松長者は、切尾商会の主要子会社であったキリオ紡績の会長であり、軍需用の特殊繊維において数々の革新を起こし、業界における切尾の地位を動かぬものにした。

 前の婿サマは、切尾家当主である前の中ノ方サマの婿であった。病弱な中ノ方サマに代わり、切尾本家の事柄について差配し、前の西ノ方サマの意に沿う家中の運営を後押しした。

 前の西ノ方サマと前の婿サマが切尾家内をまとめ、老松長者が切尾商会の事業面の立て直しを図ったことで、切尾は厳しい不況を乗り越えられた。

 急変をつづける世界の動きなどをかんがみ、権威権力が分散していた当時の切尾について、その集中が必要であると三人は考えていた。

 しかし、だれに集中させるかについて、三人の考えは異なっていた。前の西ノ方サマと前の婿サマは自らに、前の老松長者は前の中ノ方サマに求めた。

 対して、前の西ノ方サマの側近である、二代前の東の方サマ、前の南ノ方サマ、前の北殿、そしてリュウノキミなどの考えは異なった。権威権力の分散を進め多様性を増すことが、ますます先の読めなくなる未来においては必要である、と考えていた。

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