赤川

 五丘町は、戦国時代につくられた砦の跡地にある。

 砦は、赤川を北西から南にかけての備えとするため、北から流れてくる川が東へ折れる地点の北東に作られた。川以外の周辺を壕や土塁で囲んだらしく、宅地造成の際などに遺構が見つかる。

 現在の五丘町の周辺は、赤川と接していない部分については、川から水を引いたレンガ造りの水路で囲われていたが、水路は周辺だけでなく、町の中にも縦横に流れていた。

 五丘町には、その名のとおりに五つの低い丘が丁目ごとにあり、町の中央西側一丁目の丘に、切尾の本家と切尾商会の本社があった。

 残り四つの丘には、分家当主の本宅が置かれており、各当主は邸の在地で呼ばれている。

 北側二丁目には北殿の邸。

 北西三丁目には西ノ方サマの邸。

 北東四丁目には東ノ方サマの邸。

 南側五丁目には南ノ方サマの邸。

 本家の分限であった丘を、有力な分家の当主にゆずったのはオバサマである。各当主に、丘と周辺の土地を利用する権利を与えた代わりに、本宅を丘に置くことを求めた。

 物理的な距離が短くなれば、心理的な距離も短くなる。五丘に住むことになり、ある部分では、分家当主の発言権は増した。しかし、別の部分では、本家の統制が厳しくなった。

 分家の当主を丘に住まわせるようになった後、本家の当主は、中ノ方サマと呼ばれるようになった。

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