新年の祝い

 切尾の家では数え年が日常で使われ、みなが同じく年を取る新年の日を盛大に祝っていた。

 その年は、前の西ノ方サマの長女であるシズカヒメが十六になる年であったので、とくに華やかな祝宴が催された。切尾の中では、十六から大人の扱いを受け始める倣いであった。

 シズカヒメは哲学や言語学に興味を傾ける天才と称してよい女性であったが、人前に出ることを嫌い、物心ついてから新年の祝いに出たことはなかった。そのため、前の西ノ方サマは世界に数冊も残っていない奇書を手に入れ、物で娘を祝いの場に引き寄せた。

 その場でシズカヒメが、男女の恋に落ちる姿を見た。男と女はリュウノキミとカガヤクヒメであった。シズカヒメの推測は、書籍から得た知識にもとづくものであったが、事実、ふたりは恋に落ちていた。

 カガヤクヒメは、シズカヒメの一つ年下で、当時高校生であったが、将来の切尾を担う俊才と目されていた。シズカヒメとはちがい、人柄に毒気こそあったが社交性も有していた。

 シズカヒメは自分が比較されるカガヤクヒメという女性に興味をもっていた。その彼女が、書物を読んでも理解できない恋というものをしている。

 シズカヒメの恋に対する興味は、あこがれからではなく、知識欲から来たものであった。後世の事情通は、とてもたちのわるい話であった、と述べている。

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