変事
前の西ノ方サマのもと、拡大期をむかえていた切尾に変事が生じたのは、リーマンショックが起こる直前であった。
前の北殿が突如として、同業他社につながり、切尾商会の乗っ取りを計画する。この変事は北の乱と呼ばれた。
前の北殿は切尾の中では下層の出であったが、才能と前の西ノ方サマの引き立てにより異例の出世を遂げていた。それがなぜ、切尾を裏切ることになったのか、理由は明らかでない。
前の西ノ方サマの期待が大きすぎたこと。
もともと病身であり、前の西ノ方サマより年上であった彼女が引退を願い出ていたが許されていなかったこと。
同じく身分低く生まれていた前の南ノ方サマの引退が認められ、長女であるカガヤクヒメに跡を継がせるのが許されていたこと。
夫および一人娘に先立たれていたこと。
理由はいろいろと考えられた。
北の乱の直後、前の西ノ方サマは死ぬ。続けて前の北殿も死に乱は終わる。そのあと、二代前の東ノ方サマも後を追った。西ノ方サマが北殿に毒殺され、その北殿を毒殺した東ノ方サマが自死を選んだのではないかと、ある者は見立てた。前の婿サマの暗躍をうわさする声もあった。
三人の死により、切尾は混乱した。
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