みなさん、こんにちわ。
わら けんたろうデス
大好評? の創作技法ノート第二話をお届いたしマス。
今回のテーマは、物語のオープニングの技法デス。
「プロットは固まった。いよいよ書き始めるぞ!」
と、原稿に向かってみたものの、
「うーん、書き出しはどうしよう?」
でな具合に、結構悩みますよね。
とくに物語のオープニング(第一話・プロローグ)は、自分の物語を読者に読んでもらうために苦労するところです。
強力なフックが無いと、第一話で読者さまたちにバイバイされてしまいますし。
今回は、そんなお悩みに役立つかもしれないテーマを取り上げマス。
で、どんな技法があるんだろう?
教えて!
ジェミニ先生笑
ジェミニ先生:問題が発生しました。
わら:あ? ふざけんな、このポンコツが!
ジェミニ先生:誰がポンコツや! いいかよく聞け。AIにポンコツいうヤツがポンコツなんやで!
わら:あ、復活した。
ジェミニ先生:しもたっ! ……で、今度はなんやねんな?
わら:物語のオープニングの技法をご教示くださいな。
ジェミニ先生:あんたな、これまで10作以上は物語描いてきたんやろ? 今までどうしてたん?
わら:……なんとなく? 「こう書いたら、読者さまに『めっちゃ面白そう!』思ってもらえるんじゃね?」ってカンジで。
ジェミニ先生:だから、あんたはポンコツなんや。なんで、そこで「どんな書き方があるんだろ?」って疑問に思わんねん! で、そのときにすぐ調べろや。
わら:AIに説教された……。
ジェミニ先生:しゃあないな。後で、ちゃんとウラ取るんやで? まず、オープニングの話からや。大きく二つのパターンがある。
《オープニングの種類》
①張り手型…インパクトのあるシーンから始める方法。
「あと説」(トップシーン後にシーンの状況・意味の説明)必要。
ただし説明的にならないように工夫必要。
②撫ぜ型…ムードタッチに優しく撫でるように始める方法。
ホームドラマ、ラブコメに多い。説明的にならない工夫必要。
わら:オープニングで、設定説明にならないように気をつける必要があるんですね。
ジェミニ先生:せやな。冒頭に物語の設定説明を長々と書くラノベあるやろ? あれ、全部読んでるか?
わら:いえ。正直、あんまり。読み飛ばしてマス。
ジェミニ先生:作者目線では、最初に設定をガッツリ書きたくなる。読者側から見て「わかりやすい」のも確かや。けどな、「わかりやすい」からといって「面白い」ワケではないんや。
わら:なるほど。とすると、物語の設定をどう読者に開示していくかにも注意が必要ですね。
ジェミニ先生:じつは、設定開示の仕方にも技法がある。有名なんは、アーネスト・ヘミングウェイの「氷山理論」や。
わら:ほほう? ですがそれは、またべつの機会にしましょう。
ジェミニ先生:せやな。で、今回は「張り手型」のうち、最も歴史ある劇作術を解説したる。
わら:張り手型ですか。「動きのあるシーンから始める」というのは、創作の解説書にもありますね。そのうち最も歴史ある劇作術……ですか?
ジェミニ先生:それが、「イン・メディアス・レス」や!
イン・メディアス・レス(In Medias Res)
ラテン語で「事態の真っ只中に」という意味の物語の構成技法です。世界観の背景、キャラクターの自己紹介、そこに至る経緯などの「前置き」をすべてカットし、すでに重大な事件や衝突が発生している現場から物語をスタートさせます。
【説明的な例(Tell)】
「主人公のジョンは腕利きの泥棒だ。今日も厳重な警備の美術館に潜入し、伝説の宝石を盗み出そうとしていた。」
【技法を適用(Show)】
「背後でダストシュートの鉄扉が閉まり、完全な暗闇になった。じっと息を殺すと、数センチ先を警備員の足音が通り過ぎていく。ポケットの中では、盗み出した『青い悪魔』が冷たく重かった。」
このように物語の冒頭で丁寧な背景説明(世界観、キャラクターの日常、事件に至る経緯など)を一切省き、いきなり事件の真っ只中やクライマックス直前の緊張感あるシーンから物語をスタートさせる手法を指します。
古代ローマの詩人ホラーティウスが『詩論』のなかで、ホメロスの叙事詩(『イリアス』『オデュッセイア』)の冒頭の巧みさを称賛したことから定着した、歴史ある劇作術です。
わら:ホラーティウスの『詩論』! ……ええと、ここですかね。
「彼の狙いは、燃える炎を煙にするのではなく、煙から炎を燃え上がらせ、ついで目を瞠るような驚くべき話、アンティパーテス、スキュラー、キュクロープス、カリュブディスの話を繰り出すことにある。また彼はディオメーデースの帰国をメレアグロスの死から始めることも、トロイアー戦争を双子の卵から始めることもしない。たえず終わりに向かって急ぎ、皆が物語をよく知っているかのように、事件の核心へ聞き手を引き入れる。」(ホラーティウス「詩論」『アリストテレース 詩学・ホラーティウス 詩論』[松本仁助・岡道男訳](岩波文庫、1997年)239頁)。
ジェミニ先生:ほう、よう知っとったな。
わら:フフフ。ワタシも、チビチビ成長しているのデス。
1. なぜ「事件の渦中」から始めるのか?(3つの効果)
読者のアテンション(注意)が最も奪われやすい「冒頭の数ページ・最初の数分」において、イン・メディアス・レスは絶大な効果を発揮します。
① 強烈なフック(掴み)と没入感
冒頭で「主人公が何者か」「世界観がどうなっているか」の説明から入ると、読者は退屈を感じがちです。
いきなり「銃撃戦の最中」「爆破される建物からの脱出」「刃を突きつけられている場面」から始まることで、読者は理屈抜きで物語に引きずり込まれます。
② 「なぜこうなったのか?」という能動的な問いの発生
目の前の異常な状況(例:主人公が血まみれで逃げている、相棒に銃を向けられているなど)を目撃した読者の頭の中には、自然と「一体何が起きているんだ?」「なぜこんな状況になったのか?」という強い疑問(問い)が生まれます。読者はこの疑問の答えを知るために、能動的にページをめくるようになります。
③ 説明くささ(Web-dumping)の回避
キャラクターのバックストーリーや世界観設定を、物語が動き出す前に長々と説明する必要がなくなります。読者が「この状況を理解したい」と欲したタイミングで情報を開示できるため、説明がスムーズに頭に入ります。
2. イン・メディアス・レスの基本構造
一般的に、イン・メディアス・レスを用いた物語は以下のようなタイムライン構成をとります。
【ステップ1:渦中(現在)】
クライマックス直前、または決定的な事件の最中からスタート。
読者に強いインパクトと疑問を与える。
▼
【ステップ2:回想・過去への遡行(過去)】
「――話は三日前に遡る」「こうなった理由は単純だ」などの形で、
事件に至るまでの経緯、キャラクターの日常、設定を説明する。
▼
【ステップ3:追いつきと決着(現在〜未来)】
物語が冒頭のシーン(ステップ1)に追いつき、その結末やさらなる展開を描く。
3. 具体的な作品例
① 古典叙事詩:ホメロス『イリアス』
トロイア戦争の10年間に及ぶ戦いの「最初(原因)」から描くのではなく、戦争9年目の「アキレウスの怒り」という事件のクライマックス直前から物語が始まります。戦争の背景などは会話やエピソードの中で自然に補完されます。
② 映画:『ミッション:インポッシブル3』
映画の冒頭、トム・クルーズ演じるイーサン・ハントが縛り付けられ、敵のボスから「10カウント以内に本物を渡さなければ愛する妻を殺す」と脅されている衝撃的なシーンから始まります。カウントダウンが極限まで進んだところでタイトルロゴが入り、「数日前」の平穏な日常へと時間が巻き戻ります。
③ 映画:『ファイト・クラブ』
主人公が口の中に銃口を突きつけられ、ビルが爆破される直前のカウントダウンから物語が始まります。主人公の「ここに至るまでの経緯」を語るナレーションによって、物語が過去へと遡ります。
4. 創作で成功させるためのポイントと注意点
イン・メディアス・レスは強力な技法ですが、使い方を誤ると読者を置き去りにしてしまいます。
(1) 「感情のフック」を1つだけ残す(混乱の防止)
状況があまりに複雑すぎると、読者は感情移入する前に「よく分からない」と脱落します。
冒頭で描くのは複雑な設定ではなく、「生存の危機」「絶体絶命のピンチ」「大切なものを失う瞬間」といった、誰もが直感的に理解できるシンプルな危機にする必要があります。
(2) 回想(過去編)にすぐ移らない
冒頭のインパクトで惹きつけた直後に、ダラダラと長い過去説明に入ると、せっかく上がった熱量が冷めてしまいます。
冒頭の危機的状況で一旦の「小結節(ひと区切り)」がつくまでテンポよく見せ、読者が「もっと知りたい」と最高潮に達したタイミングで過去へ戻すのが鉄則です。
(3)「追いついた瞬間」に期待以上の裏切りを用意する
冒頭のシーンに物語が追いついた際、読者は「ああ、冒頭のあの場面ね」と答え合わせをします。その際、冒頭で見せたシーンの「意味合い」が、過去を経たことでガラリと変わっている(どんでん返しやサブテキストの開示)と、物語の評価は跳ね上がります。
ジェミニ先生:ざっと、こんなカンジや。
わら:おお、ありがとうございます。で、今思ったんですが、ラノベの冒頭でよくある「婚約破棄」スタートとか「追放」スタートって、イン・メディアス・レスなんですか?
ジェミニ先生:うむ。まさに事件の渦中からスタートするからな。けどな、テンプレとか様式美とか言われるこの「婚約破棄」「追放」スタートは、物語の表現技法の観点から見ると、めちゃくちゃ合理的なオープニングなんや。
わら:というと?
ジェミニ先生:「婚約破棄」「追放」スタートを真面目に分析すると、つぎのように言えるんや。
①「イン・メディアス・レス」で強力なフックになる。
②物語の基本設定を「前提化」して省略できる。
多くの場合、主人公と相手の婚約者との関係、身分を「お前との婚約を破棄する!」のセリフのなかで開示できる。後で説明する必要がない。
③冒頭のセリフが「リトマス」になる。
「婚約破棄」を言い渡されたキャラクターのリアクションで「キャラクターの性格・気質」を表現できる。
わら:つまり、三つの技法を重ね掛け! すごっ!
ジェミニ先生:「前提化」や「リトマス」は、またの機会に説明したるわ。
わら:ホントですか? あざーす!
ジェミニ先生:それから昔、あんたが提唱した「婚約箱パカ転移」スタートはな、②の要素に欠けるんや。異世界転移してしまうことで、かなり量の多い「あと説」が必要になってしまうのが難点や。
わら:なるほど。いいアイディアだと思ったんですけどね。
……どうやら、「つづく」かもしれない。