退社まで、まだ少しだけ時間はありますが、実質的に昨日が、美容師としての僕の、最後の日でありました。十四、五年続けたお仕事を辞めたというのに、その実感は、まだ薄いです。まぁ明日から本格的に次のお仕事が始まりますので(有休中だからホントはダメだけど)徐々に感じていくのでしょう。
見習いをしていた時期の一年目に、社長から
「君たちにとっては毎日沢山くるお客様にとっての一人、なのかも知れないけど、お客様にとっては数ヶ月或いは一ヶ月に一度会う人が君たちだ。貴重な時間を使って君達に会いに来てくれるのだから、感謝を忘れてはならない」
みたいな事を言われた事があります。
二十歳そこそこだった僕は「? 何ヶ月かに数十分、長くても三、四時間会うのが俺らでしょ? そんな貴重な時間?」とか思ってました。
ですが、三十を越えた今なら少しわかります。若いときは色々な人達と遊びまくる機会も多いですが、大人としての時間を積み重ねていけば段々と、遊ぶ機会も減っていきます。そんな中で年間七、八回、多い人で十二回。そんな頻度で僕に会いに来てくれる人達が沢山いた事はとても幸せな事で、それこそが僕の美容人生の中での、最大の誉れであった、と思います。
手前勝手に辞める身ではありますが、自らその関係を切ってしまうのだから、これからも、いや、これからはもっと、自分の人生に責任を持って生きてゆかねばならないなぁ、と感じるここ最近の数ヶ月でした。奴隷のような扱いをされている、と誤解してしまう人達が少なくない中で、キチンと人間扱いをしてもらっている、という実感を最期まで感じさせてくださった方々に、もっと感謝すべきでしょう。
来週の送別会では、上記した事柄にあと二つ三つほど歯の浮くような言葉を付け足した言葉を贈るか、若しくは全然違う言葉でおちゃらけるのか、それはまだわかりませんが、今は、今のこの充足した気持ちを誰かにお裾分けしたくて、こんな文章を皆様にお見せしているのかもしれませんね。
PS.
この最期の数ヶ月でお客様には本当に色々な物を贈って貰いましたが、昨日はお菓子をくれたお客様と、上質なブックカバーに包まれた本にお手紙と食べ物を添えてくれたお客様がいらっしゃいました。これだけで、僕にとっての美容はとても素晴らしいものだった、と思う事ができます。