上京して二年。二十歳になった僕は、高校の同窓会へ赴くため、久しぶりに地元「岡山」へと帰省する。 華々しい大学生活を送るかつての級友たちに劣等感を覚えつつ、一人寂しく飲んでいた僕に…

身支度を整え、あなたはふと電話のボタンを押した。 一人で暮らすには広すぎるあなたの部屋に残された5件の留守番電話のメッセージ。それらは全て共通の番号からかけられている。 その登録…

長年目が見えなかった私は、その治療のため、しばらく入院することとなる。そこで出会った、名前も顔も知らない君の口から溢れた美しい景色に、私は一瞬で心を奪われてしまった。

え、妻についてもっと詳しく知りたい？　ははは、あなたも物好きな人ですね。……いいですよ。まあ、少々、長くなってしまうかもしれませんが。

彼女と出会ったのは、大学の先輩に誘われた合コンがきっかけだった。文学部に通い、気まぐれに言葉を紡ぎながら純文学作家を志す一つ年上の彼女。誘われるまま一夜を共にしたその日から付き合…

朝起きて、いつものように家を出た僕は、玄関先で見知らぬ少女と出会う。その瞬間、気がつけば僕はまたベッドの上にいた。 「目覚めてから繰り返される五分間で、全てを思い出せ」 突如表れ…

度重なる科学の発展。それはやがて雲という副産物を生み出し、大気汚染によって地球は空の光を失った。 そこで人々は、各主要都市に置かれたAI搭載型空気清浄機に一縷の望みを託して、快適…

獄中の男に私は問う。 「最後の晩餐は何が良いか？」と。 男はただ項垂れて「コーヒー」とだけ呟いた。

パソコン研究会の部長として朝も夜もブルーライトに向き合ってきた俺は、常に寝不足の不眠症となってしまっていた。そんな俺を見かねたお節介な後輩は、とある提案を俺に持ちかける。 「実は…

ある日の放課後、下駄箱を開けるとそこには一通の手紙が入っていた。中身はなんとラブレター、ただし差出人のところは何故か数字で書かれていた。僕はこの一世一代のチャンスを逃すまいと、貯…

真夜中に目が覚めてしまった私はストレス発散のため、コートを羽織り深夜の散歩へと出かけるが、そこで偶然、徘徊する老婆に捕まり、なんと息子だと勘違いされてしまう。 家に連れていけと無…

朝、病院に行く途中で、行きつけだった古本屋へ寄って立ち読みしていた僕に突然の便意が襲い来る。しかしその本屋からは、なぜかトイレが綺麗さっぱり消えてなくなっていた。 トイレを探して…

常に注意力散漫で、誰かと話していても関係ないことをぐるぐると考えてしまう癖のある私は、そのせいで友達がなかなか出来ない。 ある日の放課後、いつものように教室で一人思考に耽っている…

自己否定に屁理屈。言い訳ばかりで絶対に首を縦には振らない彼女を、どうにかして頷かせたい。

いつものように帰宅し、夫の帰りを待たずに薬を飲んで就寝した私は、気がついたら死んでいた…… 死因はストーブの消し忘れによる火事。周りは不幸な事故だと決めつける。しかし私はストーブ…

待ちに待った小学校の夏休み。僕と妹は、宿題である自由研究の題材を探している真っ最中だった。そんな中で妹が題材に選んだのは、なんと空から降ってきた一匹のおたまじゃくし。妹は、嬉しそ…

男は、読書やテレビで時間を潰してばかりの、うだつの上がらない独身ニート。そんな男の唯一の取り柄は、物語の途中でそのオチに気がつくことが出来るというものだった。 ある日、母の職場で…

俺はたった今思い出した。俺の前世が勇者であったことを。たくさんの化け物を倒して人々に崇め奉られていたことを。 なのに今の俺はどうだ？　上司には媚びへつらい、部下には舐められ、肉体…

高校を卒業してから約一年、久しぶりに会った友人は、相変わらず少食で、おしゃべりで……だけど、どこか元気がない。 聞けば彼女は、遠距離となった彼氏とどうにも上手くいっていないのだと…

「狙え！　ラッキーセブン！」 甲子園のマウンドに響くのは、敵を鼓舞する応援席の歓声。 ７回裏、相手の攻撃。なんとしても、このリードを守り抜いてみせる。 ボールを浅く握りしめた相棒…

短歌から小説を連想して書くことは可能なのか。リハビリついでに検証していきます

ここは閉じられた狭い世界。僕らが生きていくために必要な食料は全てトンネルの中に溜まっていく。だから僕らは、今日も生き延びるために、そして世界の出口を探すために、危険だと知りつつも…

厳しい親のもとで育ち、小さい頃からピアノを叩き込まれてきた僕は、ある日のコンクールを境に声が出なくなってしまう。学校や家、どこにいてもコミュニケーションの取れない僕が安らげる場所…

元より廃墟好きだった私は、同志のブログに興味を惹かれ、廃村集落となった無人島へと足を踏み入れた。未だ生活感の残る島を気ままに探索していると、砂浜にポツンと放置された古めかしい缶の…

小学生の時、ふざけて学校の屋上で遊んで、落ちて。それが私が幽霊になる前の最後の記憶だった。私にいつも花を持ってきてくれる同級生の男の子への、温かいこの気持ちの答えを知った時、止ま…

猫のイッチは今日も部屋でダラダラ。ご主人はテレワークで大忙し。そんなご主人を見かねたイッチはある慣用句を思い出す。せや！猫の手貸したろ！！

空に浮かぶ月を眺めていると、ふとあなたの顔を思い出す。 だから私は、愛しいあなたを忘れないように、いつもその夜空をキャンバスに切り取ってしまうのだ。

ミチはいつも僕の手を引いていろんなところに連れていってくれる。僕には見えないけれど、ミチにはいつも何かが見えている。

ある日突然開設された異世界耳鼻科には、今日もお客さんがひっきりなしにやってくる。たった一人の従業員かつ医者の女が、医療のいの字すら知らないど素人だったことも知らずに……。 免許と…

居酒屋でアルバイトを始めた大学2年生の私は、たまたま客として来た高校時代の先生とばったり再会した。あの日と変わらぬタバコの香り。それは初恋の香りであり、燻る恋心の副産物だった。

手術前日、その不安から深夜に目が覚めた僕はこっそり病室を抜け出しトイレへと向かう。その一番奥、左側の個室に、お爺さんは陣取っていた。