現在選考が進んでいる「カクヨム甲子園2024」。今回はその応募作より、ロング部門とショート部門それぞれ4作品ずつをご紹介します。なお、本特集のレビューは、『「カクヨム甲子園2024」参加者応援!レビュー&コメントキャンペーン』の参加レビューより選ばせていただきました。キャンペーンにご参加いただいた皆さま、まことにありがとうございました!
 ご紹介する作品はというと、ロング部門より、突然現れた「兄の彼女」への蟠りを丁寧に描いた一作、「存在証明としての創作」にひた走る一作、同性への恋心を抱える少女の痛いまでの感情が滲む一作、不気味な因習を追った調査記録を綴った一作。
 ショート部門より、進路に悩む主人公の不安を描いた一作、花火大会に誘いたい"君"への恋心が湧き出る一作、人とAIとの関係をボカロでの作曲を起点にして描いた一作、人気絶頂のバンドマンが起こした轢き逃げ事件の裏側を明かす一作です。
 気になるものはぜひ読んで高校生作者の皆さんに感想や応援を伝えてみてくださいね。そしてもちろん、今回の特集では紹介しきれなかった参加作品がたくさんあるので、今後もぜひカクヨム甲子園応募作への応援をお願いいたします!

ピックアップ

家族になろうよ

  • ★★★ Excellent!!!

冬休みも終わりに近づいてきた頃、兄が連れてきた今村美月という知らない女性。すでに両親公認の間柄に妹である主人公の葉月だけが取り残されてしまう中、様々な感情に揺れ動くヒューマンドラマです。

兄と九つ歳の離れた高校二年生の葉月は、兄を突然現れた美月に取られたという先入観を抱いてしまい、自ら心の壁をつくり、せっかくの会話の機会に水をさしてしまいます。年頃の女の子の心情がありありと浮かび上がる二人のやり取りから強く共感出来ることでしょう。

とても興味深いのは、葉月が抱く負の感情を自身が作っている最中の卵焼きが、まるで代弁するかのような心理描写です。
ぐるぐるに混ざり合っていて、それでいて均一である必要はない取り止めのない感情。
人間の内側の柔らかいところも、それを守ろうとする硬いところも、ない混ぜに包んで成形していく。
気持ちや表情、心の変化を卵に閉じ込めてできた卵焼きは、まるで自身の分身のような存在として感じることができ、物語に深みを与えている点でとても優れています。
そして自ら心の殻を破った葉月はそれらを切り分け、兄や美月に食べてもらい思いを共有するシーンは胸を打つほど印象的ですね。

形や大きさがぎこちなくとも、やがて円かな家族になっていく。タイトルの意味がラストで結ばれる素敵な読後感を得られますよ。
一味違った卵焼きを、ぜひご賞味ください。

創作で「戦う」ことを選ぶ人間は、皆どこか似た顔をしているのかもしれない

  • ★★★ Excellent!!!

本作は、互いに似た存在である二人の高校生創作者の物語です。
かたや、才気に溢れた漫画家志望者。
かたや、心ない言葉のために一度は筆を折った小説書き。
互いに通ずるところのある二人が、創作への覚悟を決める様を描いた短編です。

二人に通底するのは、創作によって「己を証明する」ことへの、渇望めいた欲求です。
作中では「世界からの承認」という言葉で表された、あるいは「あたしが居ない世界なんかより、あたしの居る世界の方が何十倍、何千倍だって良いって言わせてやるんだ」との台詞で表された、強烈な動機。
二人は熱を共有しながら、創作者としての第一歩を歩み始めます。


この動機、本レビュー筆者には非常に腑に落ちるものがありました。
私自身、公募やコンテストへの小説応募を4年ほど続けている身ですが、勝負ごととしては非常に分が悪い賭けである公募応募を、なぜこれだけの長期間続けていられるのか……自分自身わからないところがありました。
数百分の一の倍率のために、なぜ日々技術を磨いているのか。
余暇を削って原稿を書いているのか。

ですが彼らの姿を見ていると、わかる気がするのですよ。
おそらく私も、己を証立てたいのでしょう。
私は彼らの倍以上生きていますが、年経ても世の生き辛さは減ずることなく、はみ出した者が叩かれ嘲笑われ、価値ない者と冷たい目を向けられるのは変わらない。
だから、自分の証明が要るのだと思います。いくつになっても。

「存在証明としての創作」
それがなければ生きられない種類の人間は、この世の中に少なからず存在すると、本レビュー筆者は信じています。
それゆえに彼らの姿は、ある種の普遍性を帯びているように私には思えます。


ただ、それゆえに。
物語の最後、公募やコンテストで戦っていくことを決意した彼らは、これから先、己と同じ顔をした人々と戦っていくことになるのでしょう。
すなわち、己の存在証明のために腕を磨き挑んでくる、他の創作者たち。
厳しく熾烈な争いであることでしょう。ある程度の高次まで勝ち残ってくる人々は、己の証を立てたいとの望みを、意識的にせよ無意識にせよ抱いているでしょうから。普遍性とは、そういうことでもあります。

とはいえ、それは未来の話。
今は、長く険しい戦いに向かう彼らを、ただ祝福したいと思います。
そしてもう一言、倍以上の年月を生きている者として付け加えたいのは「決して焦らなくていい」ということ。
望めばいつまででも、挑み続けることはできます。この歳になっても、まだ。


本作は、互いに似た存在である二人の高校生創作者の物語です。
そして、ここで小説を書いているあなたや私にも、どこかしら似ているのかもしれません。

君のことだけはどう頑張っても忘れられない

  • ★★★ Excellent!!!

一人の女の子の瑞々しく、醜く、美しい感情がただ丁寧で繊細な筆致によって描かれていた
彼女の苦しさが読み進めるたびにありありと伝わってきて、自分の心臓までぎゅっと何かに掴まれるような、そんな心地を覚えずにはいられなかった
彼女はこれからも生きていく
その道が辛く苦しいものであることはきっと変わらないだろうし自身も分かっているだろう
それでも捨てられない過去を抱きながら前を向く彼女は強く、美しいと思う

花は根に鳥は古巣に帰るなり春のとまりを知る人ぞなき

  • ★★★ Excellent!!!

地方の因習や神話を背景にした独特のホラーで、読者を引き込む力が強く、「エノケ」や「あの神」といった謎めいた要素が物語に深みを与え、最後まで緊張感があり、作者の描写力と物語る力が光る作品だった。
なんてものを書くのだろう、この作者は。

五感の描写について、視覚的情報はもとより、聴覚や嗅覚、触感、味覚を刺激する情報が意識的に書かれている。
とくに嗅覚、においの描写がいい。

いろんな意味で恐ろしい。

「夢を持つことを強制されている」この時代に

  • ★★★ Excellent!!!

「未来の自分」「進路希望」「一人で悩まないで」
大人が簡単にポイポイと持ってくるお題。
もしかするとそれらは、若い人には「聞こえがいいことばかり言わないで」と思われているのかもしれません。
未来は可能性に満ちている、という言葉は未来は何も決まっていないという言葉の裏返し。
それをしっかりと見つめることは、とてつもない不安と空虚な感覚を味わうことなのでしょう。
作品では主人公はそのために死ぬことさえ考えてしまうほどです。
この切ないほどの不安が作品には描かれているだけでなく、それに対する一つの答えも描かれています。
ありきたりな言葉ではなく「未来泥棒」という素敵な言葉で。
未来が白紙ではなくなったこと、それ自体に意味がある。
そんな素敵な短編でした。

SNSで繋がる恋の心理描写が透き通っている

  • ★★★ Excellent!!!

タイトルが良いです。読後に沁みるタイトル。
少しでも長くいられるように遠くの花火大会へ行くのだろうか、と思った私は浅はかでした。
もっと恋の美しさ、切なさが詰まった言葉です。

コミュニケーション・ツールの変化はいつも新しい恋の一場面を作り、そこで繊細に揺れる心は普遍的。
そのワンシーンの切り出され方がお見事と存じます。
手紙、電話、ポケベル、ケータイ、メール……の恋を知る世代として、それらとは違うSNS、DMの醸す心理を感じながら、その奥の気持ちに共感しました。

詩のように進む心理描写も素敵です。
内にこめた熱を確かに感じる言葉と、抑制を感じる全体の運びが主人公である語り手の性格をも浮かび上がらせていると思いました。

頑張り屋AIが欲しいもの、頑張った人が欲しかったもの。

  • ★★★ Excellent!!!


 ボーカロイド作曲を生業とする少年と、一緒に居続けた家庭用ロボット。

 先日、ロボットのOSは最新のものへアップグレードされ、今までは厳しかった高度な作業も出来るように。

 主を想ってロボットが行ったことは、少年の予想を遥かに超えていき……



 人とロボット(AI)との関係を描いた作品。

「ボーカロイド」という要素を取り入れた点が、現代のIFという感じで新鮮でした。

 現実のAIも、ユーモアや婉曲表現を理解するレベルに達しているとのことで、劇中のような用途も十分考えられるのかなと思いました。

 舞台設定の他にも、少年とロボットとの関係性の変化や、内に抱く想いについても注目したい一作です。


 

フラッシュから目が離せない!

  • ★★★ Excellent!!!

フラッシュの点滅にご注意ください。

これはテレビを見る私たちに向けて表示される言葉ですよね。

この作品の冒頭にも使われている言葉です。

目にはつく言葉ですが、一体どのように注意すればいいのでしょうか。

目を背ける?

私はこの作品から1秒たりとも目を話すことができませんでした。
注意書きはしっかりと頭の中に入っているのにも関わらず。

あなたもきっとフラッシュにやられてしまうはずです。

素晴らしい作品をありがとうございました。