小説を書くことで、広がる世界がある。
2,179 作品
第61回野間児童文芸賞特別賞受賞。作品は子どもから大人まで幅広い世代に支持される。著作に「名探偵夢水清志郎」「怪盗クイーン」「都会のトム&ソーヤ」シリーズ(講談社)。「モナミ」シリーズ、『僕と先輩のマジカル・ライフ』(KADOKAWA)など多数。
自分も高校時代には作品を書いていました。読ませていただいた応募作品の全てが、当時のぼくのレベルを超えていました。というわけで、当時の自分を棚に上げて封印した上で、残念に思ったことを書かせていただきます。まず、“描写“をないがしろにしている作品が多かったです。書き手はわかっていても、読んでいる方に伝わっているとは限りません。多くの人に読んでもらい感想を聞いて、描写の足りない部分に気づいてください。また、世界設定が甘いです。作品に書かない部分にまで気を配らないと、読者を自分の世界に引き込むことはできません。あと、命を扱う覚悟が足りません。原稿の上とはいえ、殺人を書くには覚悟がいることを知ってほしいです。ほかにも文字表記や不要な改行など気になったことはたくさんありますが、まずは書き続けてください。そのとき、少しでも上記のことを思い出していただけたら、選考委員をさせていただいた甲斐があるというものです。
1997年読売新聞社入社。社会部では、警視庁担当など事件取材の毎日。2011年3月の読売KODOMO新聞創刊に携わると、「伝えること」の難しさ、楽しさを実感できるようになる。読売中高生新聞デスク、読売KODOMO新聞編集長などを経て、2023年2月から現職。
今回も楽しい時間を過ごさせていただきました。どの作品からもみなさんの「伝えたい」という気持ちを感じました。
私は、新聞記者という仕事をしてきました。大変なのはもちろん取材です。あれを聞きたい、これも聞きたい、でも簡単に話してくれる人ばかりではありません。説得したり、泣きを入れたり……。そんな状況で口を開いてくれたことは欠かさず記事にしたい。取材後は、うれしさをたたきつけるようにキーボードを打ちます。
でも、よく疑問に思うのです。「自分の記事はしっかり読者に伝わっているのか?」
そんな時に考えるようにしているのは、相手の立場を考えることです。どんな読者がどんな風に自分の作品を読むか……。少し想像するだけでも、文章はグッと良くなると思うのです。
みなさんと私は「書き手」という意味でライバルです。どちらが思いをより伝えられるのか、競争しようではありませんか。
1998年にキングジム入社。電子文具開発部でファイルとテプラに続く次の柱となる企画の立案を目指すもヒット商品を生み出せず苦労したが、2008年にポメラ初号機を発売し大ヒット。以降、グループ会社社長やEC事業部長を経て、2021年6月から現職。
この度、高校生限定の小説コンテストの審査員という貴重な経験をさせていただきました。実は昔、私自身も読み切りの短編小説を執筆しブログで公開していたことがあり、今回のコンテスト参加にご縁を感じています。キングジム賞で設定したテーマは『道具』。私たちの日常に溢れる「モノ」を起点にいったいどんな「コト」が広がっていくのか、わくわくした気持ちで皆さんのアイデアを読ませていただきました。どの作品にも、高校生という今だからこそ放てる一瞬のきらめきを感じ、とても感動いたしました。キングジムのパーパスは『独創的な商品を開発し、新たな文化の創造をもって社会に貢献する』です。1人1人異なる個性が新しいカルチャーをはぐくみ、未来を変えていく。皆さんの作品がまさに、時代を切り開くきっかけになることを願っています。改めてこの度このような機会をいただいたことに感謝申し上げます。ありがとうございました。
中央公論新社入社後、文芸ジャンルの書籍編集者として勤務。2014年3月筑波大学社会人大学院にてMBA(経営学修士)取得。2016年3月KADOKAWA入社、カクヨム編集部に配属され、2017年2月より現職。
カクヨム甲子園も8回目になりました。初回から選考委員を務めておりますが、毎年、「今年も素晴らしい作品にであうことができたな」と思えることの幸せを感じています。
今年は両部門とも着想が際立つ作品が多かったです。ロング部門では、その着想を展開させる際に、キャラクターの心情や場面の流れなどがしっかりと考えつくされた作品が受賞につながりました。ショート部門では文字数に制限があるゆえに、書くべきことを必要十分に絞りきった作品に軍配が上がりました。
いずれの作品も参加者のみなさんの「語りたい」という熱意が伝わってきました。あとはどこまでその物語を磨き上げられるか、という点にかかっています。磨き上げられた作品は、さらに多くの人に届いていくことでしょう。
受賞者、そして参加者のみなさんが、これからも創作を続けてくださること、そしてまたみなさんの作品を読めることを楽しみにしています。
本作は、「食蝶」の儀式のおぞましい描写に代表される文章力の巧みさに加えて、冒頭から結末までの短い文字数で、独創的な世界観をリアリティを持って伝えることに成功している点に高い評価が集まりました。
打ち込める何かをつかんだ高校生の生き生きとした姿よ。今この瞬間を「好き」と言い切れるすがすがしさよ。背筋が伸びるような凜とした弓道の世界と、同級生の友情関係を交錯させた作品です。人生に悩む人すべての人に読んでほしいです。
異世界転生の物語がたくさんある中、まさか高校生が突然、フクロウになってしまうとは。夜空を飛び回る自由さだけでなく、フクロウとしての味覚や触覚も味わえる徹底的なところがとてもよかった。次の作品もぜひ読んでみたいです。
主人公がそっと心の中で感じていた不安や寂しさ、葛藤を日々の何気ない風景と共にさわやかに表現をしていて、情景が目の前に浮かぶようでした。ミステリーを題材にしつつも、温かさが満ちた作品でした。
すれ違う二人の思惑と矛盾する裏腹な行動との描写が甘酸っぱいひと夏の青春を感じる作品でした。今まさに青春を謳歌している高校生たちも、かつてそんな日々を過ごした大人たちにも響くのではないでしょうか。
※ロング部門のみ選考
吃音が原因で俯く少年が、周囲の優しい人々と「小説」を通して心を開き、前を向いていく過程が、瑞々しい筆致で丁寧に描かれていました。不安定な青春を象徴するような透明感のある繊細な情景描写や、短い中にも物語の起伏を意識している、”作家”としての「企み」も垣間見え、今後に可能性を感じました。
浅原ナオト特別賞の選考を担当した各社編集担当者から、最終選考作品のすべてについて選評をいただきました。ぜひご覧ください。
本作は自分そっくりに変化する「ドッペルロボット」を身代わりに、繰り返しの日常から離れて自由に過ごそうと試みるお話ですが、あらためて自分の生活の愉しみを見つけ直す、明るい読後感が素敵な作品でした。この世界でドッペルロボットを使う他のキャラクターなども盛り込んだ形で読んでみたいです。
人間の持つ悪意を解釈して、物語に落とし込もうとするたくらみを感じる作品でした。 サキが、”悪者”を動画に撮ってSNSに晒すことで”魔法少女”として正義の執行者になりきっていく様子に迫力があります。心理描写の巧みさに比して、外見描写が少ない点が惜しく感じられました。
AIで生成された理想の彼氏たちが実体化して主人公の現実での恋愛を助ける、という一風変わった着想を起点に置いた本作では、ストーリー展開にはやや強引さがありましたが、主人公は相手の虚像に憧れているだけで、自分では見えていなかった相手の側面を受け容れられない、というキャラクター作りが非常によく効いていました。
リリカルな感性で、感情を持つ人間が排除されたディストピア世界の描写を試みている意欲作で、瑞々しい文章が美しいです。感情がない人間同士の社会における生活は、現代日本の生活とどう異なるのかなど、広大な世界観の細部をさらに詰めこんだバージョンもぜひ読んでみたいです。
「瑞国」を舞台に、国の未来を憂う高潔さが故に宦官に落とされた楚清朗が、側仕えとして皇子と絆を結び、薫陶を受けた皇子が賢王として治世を敷くまでの物語を描いた本作では、物語の構成やキャラクターの心の流れに破綻がなく、細部まで調べが行き届いている点も含め、見事な作品でした。
夏休み明けの登校日に、「宿題が終わらなかったから」世界を滅ぼした鈴木さんと早瀬くんの会話劇を描いた本作は、物語としての構成力と確かな文章力で、高校生らしい一コマを描いていました。力量があるので、ぜひ挑戦的な題材での執筆にも取り組んでいただきたいです。
本作は仙人然とした小さな老人が突然主人公の周囲に現れる、という奇抜なお話ですが、劇的な展開をつけたり、隠喩を仄めかしたくなるような部分を、あえて振り切って「ただ、小さい老人がいる」という独自の世界観を突き詰めているところが好ましく感じられました。
本作は、「先輩」の恋愛相談に乗る後輩の一人語りで構成されていることで、オチへの運び方と着地がなめらかに描かれていました。リズムのある文章にはするすると読まされる力量があり、作者自身にも、ショートショート作家としてのポテンシャルを感じます。
詩的な筆運びで古典を通して主人公の初恋の先生への想いを表現した本作は、作者の古典に親しむ気持ちが伝わってきました。先生の描写もリアリティーがあり、さらにテーマを膨らませば短編小説にもなりそうな伸びしろも感じます。
ケイタが夢の内容を録り溜めたボイスメモのデータを、彼の死後に遺品として受け取った友人・タクミの視点を描いた本作では、白く明るい病室のイメージと、ボイスメモという無機質なモチーフがうまくマッチしており、回想から始まり、友人の死後を描くスムーズな展開の構成力と、不思議な世界観に読者をいざなうような文章力がありました。
各部門でペンネーム五十音順
高校生のみなさま、多数のご応募ありがとうございました。
「【高校生限定】カクヨム甲子園2024」の中間選考の結果を発表させていただきます。
多数の力作を投稿してくださった皆様、並びに作品を読んでくださった皆様には、改めて深く御礼申し上げます。
※掲載の並びは作品のコンテストへの応募順となっております
選 評
兄の恋人に対する妹の微細な心の揺れ動きをじっくりと描いた本作では、「卵焼き」のモチーフに感情の変遷を仮託するような、卓越した描写力と作者自身の持つ将来性、双方の観点から満場一致で大賞に決定しました。