先月は「KAC2022 ~カクヨム・アニバーサリー・チャンピオンシップ 2022~」が開催されていたので、短編小説を読む機会も多かったのではないでしょうか。今回の特集では「求ム! 短編小説マイスター『カクヨムWeb小説短編賞2021』複数作品エントリー応援キャンペーン」にて、「カクヨム運営が推す“短編小説マイスター”」に選ばれた5名の短編小説をご紹介します。
「短編小説マイスター」の作品は当然ですが面白いものばかり。紹介したい作品が多すぎて、決めるのが困難でした。本特集をきっかけに、ぜひ他の作品も読んでみてください!
最後に、昨年12月から1月末まで作品を募集した「カクヨムWeb小説短編賞2021」には9,288作品もの応募がありました。あらためまして、多くの皆さまにご参加いただき、ありがとうございました。最終選考結果発表は5月を予定しています。
夏の夜、「わたし」は荷車を押し、山間の道を進む。「たなばたさま」を口ずさみながら、小学生の頃の七夕の出来事を思い出す。短冊にすぐに願い事を書いた双子の姉と、二つの願い事を書いて一方を隠してしまったわたし。満月の下で、ある儀式が始まる……。
一つ一つ丁寧に紡がれた言葉たちが、読者を幻想的な物語の舞台へと誘います。特に「月葬」のシーンは圧巻で、思わず呼吸を止めて読んでしまうくらいの密度です。叶わなかった願い、決して届かない想い。静謐な世界の中で、奇跡のような一瞬が描かれます。
そして、最後にわたしが見出した答えとは……。終始美しい、珠玉の短編小説です。
(カクヨムWeb小説短編賞2021 “短編小説マイスター”特集/文=カクヨム運営)
思春期に触れる「死」は繊細で、言葉にしたり表現したりするのが難しいものです。本作は「人は死ぬと打ち上げ花火になる」というシュールな設定によって、それを捉えることに成功しています。
タイトルから物語の結末は想像できるのですが、そこに至るまでの「わたし」の心の変化が見どころです。関わりの少ないクラスメイトの男子という距離感がかえって「死」を見つめるのに適しているようで、作者のセンスを感じます。
夏、花火、クラスメイトの死……。エモい要素で構成された、じんわりと胸の中で響く物語です。
(カクヨムWeb小説短編賞2021 “短編小説マイスター”特集/文=カクヨム運営)
時には異世界ファンタジー、時にはSFだったりとバラエティー豊かな短編集なのですが、イチ押しはタイトルにあるように学生が主役の物語です。
部室での些細なやり取りが甘酸っぱい「推理ラブレター」や、お互いに秘密を抱えた男女のラブコメ「ヤンキーメイドとオタク委員長」など、青春のワンシーンを切り取る視点が秀逸です。共感したり笑えたりと魅力的な登場人物がたくさん出てくるのでそれだけでも楽しいのですが、どのエピソードにも思わずニヤリとしてしまう展開が隠されているのがミソです。
次はどんな「生徒」が出てくるのだろう、と期待に胸が膨らみます。
(カクヨムWeb小説短編賞2021 “短編小説マイスター”特集/文=カクヨム運営)
轟音と夏の暑さと群衆が生んだ大きなうねりの中に脳が溶けていく感覚。ロックフェスの醍醐味です。主人公は野外フェスに参加して、「ありふれた群れの一部」になりたいと望むのですが、決して馴染めません。しかし、彼との出会いによって、そしてバンドの演奏によって、次第に蕩けていくのです。
その過程だけでも十分に楽しめるのですが、本作には仕掛けがあり、フェスの一場面が回想になっています。現在の主人公の目の前には記憶が溶けてしまった彼がいて、彼の語る二人の出会いは実際とは少し異なっているようで……。だからこそ、過去の思い出がより大切で美しいものになるのですね。現在と過去のシーンをつなげる最後の一文は見事。この小説の心地よい残響をいつまでも聞いていたいです。
(カクヨムWeb小説短編賞2021 “短編小説マイスター”特集/文=カクヨム運営)
若い男が公園のベンチに座り、泣いている。片思いの女性が結婚してしまい、彼は想いを打ち明けられなかったことを後悔していた。すると、不思議な老人に話しかけられ、出た目の数だけ過去に戻れるというサイコロを渡される……。
タイムリープはSFでは定番ですが、設定を十二分に駆使して、主人公の運命を巧みに転がしていきます。そして、本作の魅力である最後の一文にたどり着くのです。フリを丁寧に積み上げて、最後に回収し、物語の厚みを一気に作り出す手腕に脱帽しました。
この後、どうなるんだろう……。思わず自分の頭の中で続きの物語を想像してしまう、鮮やかな短編小説です。
(カクヨムWeb小説短編賞2021 “短編小説マイスター”特集/文=カクヨム運営)